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外は日が沈み始めたというのに茹だるような暑さだ。
凜との待ち合わせ場所の駅から降りてすぐの植木の縁に腰を掛けていると同じ目的で来ている華やかな人たちが二人の横を通り過ぎて行く。
この暑い中で浴衣のような長袖の服を好んで着る女の気持ちは一生分かりそうにない。
いや、女と一緒に歩く男の中にも浴衣のやつがいる。
正気の沙汰とは思えないと、朱里は顎を伝い流れ出る汗を首にかけたタオルでぬぐいながら思った。
例年なら夏休みの間はよほどの用事がない限りは冷房の効いた家で過ごしてきた朱里だったが、凜との約束ゆえ今日は例のお祭りに来ていた。
出かける前は暑い日にわざわざ遊びに集まる連中の気持ちが理解できるかもと思ったが、今は一ミリでも考えたことすら後悔したい気分だ。
いつにも増して不機嫌なオーラが出ていたのだろう。
そばを通る人たちが朱里の顔を見てはあえて避けていくような気がする。
しかも横にいる凜は少し怯えている様子だ。
「朱里ぃ、せっかく来たんだから楽しもうぜ」
「楽しめる気がこれっぽちどころか欠片もしなんだが……」
朱里と目が合うと凜が小さく悲鳴を上げた。
そういえば、凜も浴衣ではないとはいえ甚兵衛を着ている。
派手な赤いTシャツとハーフパンツにサンダルという部屋着と大差のない朱里とは違い、祭りを楽しみにして準備をしてきていたようだ。
「な、夏祭りってのはこれから楽しいんじゃないか!出店で飯を買って食ったり、派手な打ち上げ花火を見たり……」
話を聞いても祭り自体には興味がわくこともなかったが、今日のために準備をしていた凛のために動くのはほんの少しだけ楽しそうな気がした。
「前にも伝えたけど、つまらなかったら置いて帰るからな」
大げさにため息をついて立ち上がり祭りの会場に向かって朱里が歩き出すと、凜は唖然としてしばらく背中を見つめていた。
動き出そうとしない凜に朱里が行かないのか声をかけると、楽しそうに笑い追いかけてくる声が後ろから近づいてくる。
暑苦しいのはやっぱり嫌だが、なんとなく凜とのやり取りは学校以外でも楽しいと少しだけ朱里は感じた。
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