透明クラゲ

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 いつものように一人でご飯を食べ、イヤフォンで音楽を聴きながら、本を読んでお昼休みを過ごしていたらクラスメイトが消えていなくなっていた時があった。  音楽と本の世界に酔っていた梢は、まだボーっとする頭のまま「まるで魔法のようだ」と教室を見渡していると時刻表が目に入り、次の時間はいつもと予定が変更になっていることが書かれているではないか。  ―――もしかしなくても、これはまずい状況なのでは?  現実に無理やり引き戻され、時計を見るとあと数分で授業開始の合図(チャイム)が鳴る時間。  梢は勉強道具をさっと集めると教室を飛び出した。  移動先の教室を目指している途中、静かな音楽室からピアノの音と女の子の歌声が聞こえてきた。  梢は急いでいることも忘れ、足を止めてその歌声に聞き入ってしまった。  透き通った水のような美しくありながら、力強くまっすぐで揺らぎのない努力をしてきたのもよくわかる音色。  音源では好きな声をよく聞いていたが、現実でしかも同じ学校でここまで美しい声を聞いたのは初めてだった。  しばらくぼーっとその歌声を聞いていた梢だが、次の授業の先生に「筒島、こんなところで何しているんだ?」と、声をかけられて今おかれている状況を思い出し先生に意味もなく謝り、その場を後にした。  歌声の正体を知ることが出来なかった梢はその日一日ひどく後悔するはめになり、授業の内容など頭に入らなかったのは言うまでもない。
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