透明クラゲ

5/11

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
 いつもは教室の隅で大人しく音楽を聴いているか、本を読んでいるだけの梢だったが、動き始めると自分でも驚くほどの行動力を発揮し、先生たちやクラスメイトは面白がって、様々な情報が飛び交った。  だが、自分自身が発信している情報が不確かなため、どう頑張っても正しい情報にたどり着くのは難しい。  梢は心が折れそうになり、思わず廊下でへたりと座り込んでしまった。  誰もいない廊下だなぁと、目の前の教室を見るとそこはあの音楽室の前だった。  そういえば、あれから一度も歌声を聞くことはなかったと思い出す。  名も知らない彼女は歌うことをやめてしまったのかと、頭によぎった。  やっぱり、最初に出会ったときにちゃんと顔を見ておけばよかった。  どんなに後悔しても時間は戻らない。  思わず、泣きそうになった彼女の目の前で扉があいた。  梢は一瞬、もしかしてと淡い期待をもって空いた扉の方を見た。  だが、そこにいたのは……  青色のボールのようなものだった。  鋭くとがった目に同じくまあるい足が付いた生き物。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加