透明クラゲ

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 まるで自分だけが取り残されたような空間で、何番目かの部屋に差し掛かった時、中にいる人物と目があってしまった。  ―――げっ。伊藤先生だ。  声には出さなかったが、もしかしたら表情には出てしまったかもしれない。  若くて顔も良い、人気の茶道部の臨時講師だ。  先生目当てで茶道部に入る生徒もいるが、梢はクラスメイトに誘われて嫌々ながらも参加した部活見学で会った時から苦手だった。  お茶の先生なのにおしゃれなアッシュグリーンの髪色をしているところも、取り繕ったような笑顔を常に浮かべているところも、何より何かを隠しているような声が気に入らない。  ファンの子には言えないが、実はすごく悪い人なのではないかと梢は心奥底で警戒していた。 「おや?こんな時間に生徒さんが来るなんてどうしたんですか?」  長い髪を一つにまとめ着物をキレイに着こなした先生は、優し気な笑顔を浮かべ部室の扉を開けた。  普段から何か取り繕っているところがある先生だが、今回はいつも以上に何かを隠している気がした。  先生の後ろに何かを包んだ大きな風呂敷がもぞもぞ動いているように見える。 「いえ……少し探し物があって……先生こそこんな時間にどうしたんですか?」 「今日の部活の準備ですよ。いつもでしたら、お茶とお菓子を用意してあげたいところですが……今日はどうも大きなネズミにお菓子を食べられてしまったようで、お招きできず申し訳ありません。」  ―――ネズミ……かぁ。  梢は先ほどの青いボールを一瞬思い浮かべた。
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