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先生の後ろでもぞもぞ動いているように見える風呂敷のサイズは、あの青いボールと同じくらいな気がする。
もしかしたら、先生はその存在を知っているのではないだろうか。
「伊藤先生、あの音楽室で……。」
梢が青いボールの生き物のことを話そうとしたとき、言葉をさえぎったのは講師の予想外の言葉だった。
「そういえば、最近見てませんね。姫凛さん。」
―――姫凛……さん??
目を丸くしていると大人の笑顔で先生は応えた。
「春頃、音楽室でよく歌の練習のしていた子です。1年生の姫凛桃さんですよ。ご存じですか?」
自分が探していた情報を予想外なところで手に入れることになり、梢は先ほどまで探していた青色の生き物の存在を忘れてしまうくらい困惑した。
先生の問いかけに答えることもできず、口を開け呆然としていると昼休みが終わる合図が鳴るのが聞こえる。
「おや、お昼休みが終わってしまいましたね。また何かあったら放課後に来てください。その時はお茶とお菓子を用意しておきますよ。」
胡散臭い笑顔を浮かべる大人の声を聞き流し、梢はお礼だけを述べるとその場を後にした。
ようやく掴めた名前を忘れないように小さな声で何度もつぶやき、教室に向かいながら。
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