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梢がいなくなった後、伊藤は先ほどまで浮かべていた優し気な笑顔を脱ぎ捨てると後ろにある風呂敷包みに冷たい視線を向けた。
「何しに来たんですか。この愚弟。」
ファンの生徒が聞いたらショックを受けてしまいそうな、冷たく怒りをあらわにした声。
どちらかというとこの声が彼の地の声に近いのだろう。
もぞもぞと動く風呂敷を茶道部の講師は致し方なく解いた。
「愚弟ってひでぇよ。抹茶ー。」
そこから飛び出したのは先ほど梢が追いかけていた青色のボールだ。
丸いボディやサイズに合わない低い声で伊藤……いや、兄の抹茶に嘆いた。
「ここでは伊藤先生です。せっかく用意した茶菓子まで全て食い散らかしてどういうつもりですか。」
反省の色も見せない弟の姿に大げさに抹茶はため息をついて、放課後の部活に用意する茶菓子をどうするか考えることにした。
そう。
彼の伊藤というのは、彼の本当の名前ではない。
この世界で生きるために得たかりそめの姿と名前だ。
本来ならばこの青玉も同じように姿を変え、生活をするはずだった……が、どうもうまくいかなかずそのままの姿で生活をしていた。
青玉の生活をサポートしていた先輩も、さじを投げ今ではどこで生活しているかも不明のまま。
「かわいい弟が兄貴の仕事ぶりを見学しに来るのに理由がいる?」
「あなたをかわいいとおもったことは一ミリもありませんけど?」
「そ、そんなお兄様!ひ、ひどいわぁ!」
「その言い方、気持ち悪いのでやめてください」
丸い体を器用にくねらせおかま口調ですり寄った青玉は抹茶に冷たくあしらわれると、「ノリが悪いなぁ」と畳の上にふて腐さり寝転がった。
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