212人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
🐾 🐾 🐾
二人と一匹で帰宅すると、部屋には甘い匂いが満ちていた。しかも、とっ散らかっていた居間はきれいに片づき、塵一つない清潔さだ。
(掃除してから追いかけてきたのか……)
冷静な恋人のおかげで、丹羽と紅平に遭遇できたわけだ。この微妙な幸運により、朝香の秘密を教えてもらえたのである。
「なに、ニヤけてんだ。さっさと上がれ」
いつもの調子を取り戻した朝香は、ステラの足を拭いている。疲労で立ち尽くす恵の横を通った彼の後を、ご機嫌な犬が付いていく。
「大ちゃん、俺、すげえいい男に会ったんだ」
「へー、そりゃ、よかったな」
「すんご~い美形。CGかな?って、思うくらい。背も高くて、スラッとしてた。あんな綺麗な人、見たことない」
「はいはい。よろしゅうございましたね」
洗面所で手洗いをしながら軽く流した男の背中に体当たりする。体温とともに伝わってきた振動で、朝香が笑いをこぼしたのがわかった。
「で、なに? いい男に尻尾振ってついてっちゃったわけ?」
「そ! ……俺じゃなくて、ステラがね」
笑って身を反転させた朝香にしがみつく……直前に唇を奪われた。体を支える強引な力に身を委ねると、先ほどまでの怒りや悲しみが夢のように儚いものとなる。恵の頭を抱える彼の手が冷え切っていた。心配かけて、ごめん――想いは言葉にはならずに、深いキスへと変化する。手の冷たさとは対照的に、口内を探る舌からはたしかな熱が伝わった。
「お前の体は冷えすぎだ」
「大ちゃんの指も冷たいよ」
顔を見合わせて笑いをこぼすと、もう一度、唇を重ねようとした。
グルルル、ウ~、フッフッ……ムードをぶち壊す獣の唸りに、二人で振り向いた。ステラが鼻に皺を寄せて、恵のスウェットパーカーの裾を引っ張っている。
最初のコメントを投稿しよう!