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廊下から聞こえてくる生徒のしゃべり声、それと同時に廊下を走る音、風に吹かれながらカーテンが揺れる。
何もかも、かき消すように一心不乱に弾き続ける瀬下泰斗(せしもひろと)は、今日もピアノに没頭していた。
「相変わらず熱心に弾きますねぇ!」
ツッコミを入れるかのように、横から割って入ってきた女子生徒佐伯乃亜(さえきのあ)は、ゆっくりと近寄ってきた。
「邪魔するならあっち行け。」
俺は、追い払うかのように、手を前に出しあっち行けのサインを出した。
「何よ!そんな事言わなくたっていいじゃない!」
そう言い、佐伯は背中に背負っていたバイオリンケースを置き、バイオリンを取り出した。
「せっかくだから、合わせてみようよ。」
「はぁ、何を勝手に…。」
佐伯は、人の意見も聞かずに弾きだした。
ゆっくりな所はゆっくりと優雅に弾いて、激しいところは弓を大きく早く動かし、ミスのない完璧な動きだった。
佐伯は、幼馴染でもあり、ここら辺では有名なバイオリンニストとして知られているのだ。
ハマるもの、好きな曲、ジャンルも、全て丸かぶりな程息ぴったりだねっとよく周りに言われるくらいだ。
でも俺は、そんなこいつが嫌いだ。
なぜなら、俺に合わせるかのように毎日この音楽室に現れ、毎日ここで一緒に弾いているからだ。
こんな音楽に才能がある奴が、何で俺なんかとつるんでるのか理解不能だった。
「ねぇ、泰斗!今度一緒に…!」
バァァァァン
俺は、ピアノの鍵盤を強く叩きつけた。
「もう、いい加減にしろよ!何で俺に構うんだよ。もっと他にも上手い奴なんて沢山いるだろ!」
音楽室に響き渡り、辺りは一旦静まり返った、だが…。
「何言ってるの?」
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