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その重低音に声に、俺は何故か寒気がし、恐る恐る顔を上げると、そこには険しい顔して、佐伯がこちらをにらんでいた。
「私が、同情してずっと一緒にいると思ってるの?」
「だって、お前の方が上手いし…、だから。」
すると、佐伯は俺のおでこに思いっきりデコピンをしてきた。
「いってぇ!!何すんだよ!」
「ふざけた事を言ってるからデコピンをしたの!変な事は考えないで!」
佐伯は、俺の頬を両手で触れ、顔を上げ、目を合わせようとした。
「私は、泰斗がいないとバイオリンが弾けないの!だから、これからもずっと一緒にいたいのは私の為なんだよ!」
佐伯は、怒りっぽい口調で喋っているが、顔は自信たっぷりに言うかってくらいのキメ顔をしていたので、俺はお腹を抱えながら大笑いした。
「え、どうしたの?」
「いや、だって、お前そこはキメ顔をするところじゃないだろう?」
俺は、その言葉を聞いて抱えていたものが一気に吹っ切れたような気がした。
「佐伯は、やっぱり馬鹿だな。」
「な!何で急に悪口に!?」
佐伯は、更に怒るが、俺はさっきのセリフがまだつぼっていたのか、笑いが隠しきれなかった。
「もう!人を馬鹿にしといて。じゃあ、私はもう帰るね!」
佐伯は、扉の方へ歩み寄り手を振りその場を後にした。
「本当に嵐みたいな奴だな。」
俺は、気を取り直しピアノに目を向け、弾き直した。
佐伯のように、優雅に誰かの心に響くように…。
ピアノを弾いている時、佐伯は扉の少し手前で立ち止まっていて、少しの間ピアノを聞いていたのを俺は気づかなかった。
「泰斗は天才だよ。それがまだ、知られていないだけだよ。」
そう、佐伯は呟いた後、廊下をゆっくりと歩みだした。
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