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3日目
「俺、部屋決まったから。3日後にここ出る」
俺の作ったカレーを食べながら、孝弘が言った。3日後とは早いなと思いながらも、早く出ていきたいのだから仕方がないかと俺は納得する。なるべくなら顔も合わせたくないだろうから。
「じゃあ俺もお前に合わせて引っ越しするわ」
「……部屋決まったのか」
「ああ」
本当は、目星を付けていた部屋はまだ迷っていたのだけれど今決めた。この部屋に一人になるのは、正直きつい。
俺が返事をしてから話題が途切れて無言になる。今さらテレビをつけるのもなんとなくわざとらしくて、沈黙に耐えた。
お互い、新しい部屋がどこなのかは聞かない。正直に言えば俺は少し気になったけれど、それは聞くべきじゃないし、その権利はないだろうと思い黙ってカレーを口に運んだ。
孝弘はカレーが好きだった。香辛料を使った本格的なやつじゃなくて、俺が市販のルーを使って作る普通のカレー。これがいいといつも同じメーカーのルーに、牛コマとジャガイモ、それから人参は小さめにして。一度グリンピースを入れたら散々怒られたから二度と入れなかった。チョコを入れると美味しいんだと、テレビで仕入れた隠し味を俺の横に立って真剣な顔で鍋に入れて。
余った板チョコを食べながら俺の分と自分の分のご飯をよそってカレーが出来上がるのを笑いながら待っていた。
「正文の作ったカレーの方がうまい」
ローカル番組で取り上げられていたカレーの店に行ったとき、本格的なスパイスを使ったカレーを食べて孝弘はそう言った。近くに店員がいてあからさまに不快そうな顔をされたから、俺と孝弘は急いで食べて店を出た。結局、店の駐車場で大笑いしてしまったのだけれど。
「ごちそうさま」
孝弘がそれだけ言って立ち上がり、部屋に戻って行く。夜ご飯の準備は俺の役目だからと孝弘は食べおわった皿を下げることもしない。それで何回か言い合いになったけれど、結局俺の方が折れるはめになった。
俺は自分の食べ終えた皿と孝弘の皿を流しに出す。孝弘の皿が綺麗に食べられているのを見て、荷造りを始めなければ、と思った。
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