井上さんの隠し事

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井上さんの隠し事

 次に隠し事を発表したのは、井上さんだった。  井上さんは清楚な美人で、学年問わず人気があるマドンナだ。色んな男子からほぼ毎日告白されているが、今まで誰かと付き合ったことは一度もないらしい。かく言う俺も、密かに井上さんに想いを寄せていた。  井上さんは椅子から立ち上がると、淡々と「隠し事」を暴露した。 「実は私、告白してきた人全員と付き合ってるの。ううん、正確には付き合ってるんじゃなくて、利用してるだけ。私が欲しい物を買わせたり、代わりに宿題をさせたり、親の車で家まで送り迎えさせたり……私の都合のいいように使ってるの。もちろん、本命の彼氏は別。去年、教育実習に来た大学生の人と付き合ってるの。告白してきた人達とは違う、大人の男性よ。私になんでも買ってくれるし、宿題だってやってくれるし、デートの日は家まで車で送り迎えしてくれる……親がいないと何にも出来ない子供とは大違い! やっぱり私に合うのは、お金を持ってる年上の男性ってことね。これから私に告白する人は、私に釣り合うような人になってから告白してね。いちいち振るのも面倒だから」  井上さんは最後にニッコリと微笑み、席についた。教室はしんと静まり返っていたが、 「いやぁ、すごい演技力だったね!」 と、淀川先生が褒めたことで、みんなはほっと息を吐いた。遅れて、割れんばかりの拍手が教室に響く。 「なんだ、演技かー」 「びっくりしたよ」 「将来は女優さんになれるんじゃない?」  みんなから賞賛され、井上さんは澄ました顔で微笑んでいた。  でも……俺は拍手できなかった。  だって、井上さんが冗談を言っているようには思えなかったから。  あれは演技なんかじゃない。彼女も俺と同じように、本当の隠し事を暴露したんだ。  他にも本当の隠し事を暴露しようとする人はいるのだろうか?
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