手塚さんの隠し事

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手塚さんの隠し事

 篠田君の隠し事がよほど面白かったらしく、 「俺も宝くじを当てました!」 「裏山に埋まっていた篠田君のお金を、掘り起こしました!」 「篠田君のお金で、南の島を購入しました!」 と、彼の隠し事に便乗して嘘をつく人が続出した。  これには淀川先生も「篠田以外の隠し事はないのか〜」と苦笑した。  すると、学級委員長の手塚さんが先生のリクエストに答え、篠田君とは全く関係のない隠し事を話した。 「私は、病院で幽霊を見たことがあります。あれは風邪で通院していた冬の日のことでした。熱で頭が回らなかったせいで、入院病棟に迷い込んでしまったことがあるんです。私は慌てて近くにいたお婆さんに道を尋ねました。お婆さんはミエ子さんと言って、"もうかれこれ二十年ほど入院している"とおっしゃいました。でも、私にはそんな重病人には見えませんでした。手すりにつかまってはいるけど、年の割に足腰がしっかりしていて、顔色も良かったから。そのことをミエ子さんに言うと、ミエ子さんはいたずらっ子のように笑って言いました。"実は私、もう死んでるの。これから天国に行くのよ"。そう言うとミエ子さんは私をナースセンターへ案内して、どこかへ歩いて行きました。私はなんだかミエ子さんが気になって、ナースセンターにいた看護師さんにミエ子さんのことを尋ねました。すると、看護師さんはびっくりした様子で言いました。"そんな……あり得ないわ。ミエ子さんはずっと寝たきりなのよ"、と。それから間もなくして、ミエ子さんの病室からのナースコールが鳴り響きました。ミエ子さんが病室で亡くなったという報せでした」  手塚さんの話が終わると、みんなハッとした様子で拍手した。手塚さんの語りには、篠田君とは違う意味で引き込まれるものがあった。  特に篠田君は信じられない物でも見たかのように、呆然と手塚さんを見つめている。もしかして、幽霊話が嫌いだったのだろうか?  俺は篠田君を不憫に思いながら、他のクラスメイト達の隠し事に耳を傾けた。
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