7人が本棚に入れています
本棚に追加
「なんと…それで得心がいきました。ありがとうございます。なんとお礼を申し上げればよいか…」
村長は納得したようで何度も頭を下げる。周りの村人もまた思い思いの感謝の言葉を口にする。
感謝されて悪い気はしないけれどもそのためにやったわけでもない。
微妙な居心地の悪さにどうしたものかと迷っていると、ぱらぱらと集まってきた村人たちの中には大岩熊に襲われていた少女たちの姿を見つける。
無事帰ってきたんだな。だったらもうここに心残りはない。なんだか落ち着かないしさっさと退散しよう。うっかり彼女らに触れると大変なことになる。
「それじゃ、俺はこれで…」
そう言って立ち去ろうと村に背を向けた視線の先、そこには金色が在った。
仁王立ちに両腕を組み満面に不遜な笑みを湛える少女の姿。
「役者じゃねえかオイ、せっかくだからもう一芝居打たせてやるよ」
その声はまるで耳元で囁かれたかのように近くで聞こえ、次の瞬間遠目に見えていたと思った少女の代わりに全身に岩を纏ったような巨大な生き物が姿を現す。
「え、ちょ」
「大岩熊だああああっ!!」
状況を把握するより先に村人の誰かが叫んだ。現れた大岩熊はそのままこちらへ突進して来る。
「あっちゃー、もしかして番だったか?」
そういえば倒したやつは雌だった。となると果たしてこれは必然なのか仕組まれた茶番なのか、どちらだ?
いや、どうでもいい。そんなことより少しでも村から離れたところであれを食い止めなくては。手にあるのは大剣と盾、使い慣れた得物はここにはない。
やれるか?正直不安はある、だがやるしかない。
成り行きとはいえ、彼は【聖女の勇者】なのだから。
青年は盾を前に構えると全速力で突進した。
『背中に守るものがある限りアンタが後退を強いられることはなく、それは限りなく力を与えるだろう』
【聖女】の祝福の言葉を思い出す。
「マジで頼んますよ【聖女】サマぁっ!」
圧倒的巨体との正面衝突。全身に衝撃が走りバラバラに砕け散ったかのような錯覚。しかし、止めた。村まで五十歩も無い距離だけれども、止めた。
「うっひょお祝福すげえええっ!」
小声で叫びながら一歩踏み出す。大岩熊が一歩退いた。体格差などものともしない力が湧き出すのを感じる。
背中に視線を、熱を、想いを感じる。
「う、お、お、お」
助けを求める気持ちを、自分に期待する人々の気持ちを力に変えていく。青年は一歩また一歩と大岩熊を押し込みながら大剣を抜いた。
「悪いなあっ、お前も生きて行くにゃこうするしかないんだろうけど、さっ」
閃光のように振り下ろされた白銀の刃は正面から文字通り大岩熊を両断した。
最初のコメントを投稿しよう!