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殺したからには食えるぶんは食い、食わないなら埋める。そうしないと別の獣や魔獣を呼び寄せて付近の住民に迷惑をかけるからだ。
オークは鉄球を放り出し山刀で大岩熊の死体を解体しながらぼやく。
「あの子供らは村に帰れたんかねえ」
とはいえもはやどうすることも出来ない。彼女らはオークが追ってきたと知れば必ず隠れるだろうし、下手に追えばかえって危険に陥れる可能性のほうが高い。かといって村に確認や報告などしに行こうものなら村を挙げての大パニック間違い無しだ。
「はーあ、種族の壁が原因で出来ることが少ないってのは切ないねえ」
彼はオーク族としては大変不幸なことに、人間にもなかなか居ないレベルの類い稀な善性を有していた。
人間から奪い、犯し、殺す。オークとして当然の行為を受け入れられなかった彼は仲間からも敬遠、ともすれば迫害されて生きて来た。
人間に限らず獰猛で残虐な同族であってもむやみに傷付けたくなかった彼は集落を捨ててひとり、人間の村の近くに出る魔獣などを狩って静かに暮らして来た。
孤独は構わない。寂しいけれど自分で選んだ道だ。けれどもこの姿が原因で出来ることが少ないという事実には常に歯痒さを感じていた。
だからだろうか。
「アンタのその悩み、アタシが解決してやるよ」
張りのある若い女の声に視線を上げると、そこに金色が在った。
腰まで届く跳ね放題の、しかし透き通るような蜂蜜にも似た金髪。猫のような大きな瞳は髪と同じ色に輝いている。
袖のない純白の衣は膝下まであるはずの裾が膝上で無造作にまとめて括られきめ細やかな肌の素足をこれでもかと強調する。
その眩いばかりの白と金は、包まれた小麦色の肌を一段と際立たせた。
「えっとぉ…」
突然の来訪者に気配も感じられなかった驚きより、先ほど少女たちに逃げられたばかりの傷心が先立ってしまう。オークは小さめの声でおずおずと遠慮がちに聞いた。
「どちら様で?」
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