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あんまり詮索すると機嫌を損ねそうだ。既に少し雲行きが怪しい。
「わかりゃいいんだよわかりゃ。で、アンタ名前は」
「えっと、ガランバルドっス」
「よーしガランバルド!」
彼女は仕切り直すように髪をばっさーっと両手で掻き上げ、満面に不遜な笑みを湛えて両腕を組み直した。
「アンタのその悩み、アタシが解決してやるよ!」
「急っスね」
ぶっちゃけ展開に置いていかれそうだった。悪魔だって契約前にはもう少し丁寧に説明してくれるんじゃなかろうか。
「ええと…それってあれスか。【聖女の勇者】とか言う」
「お、よく知ってんな」
「そりゃまあ、一応死活問題なんで」
四女神の【刻印】を受けた【勇者】のことはオークの集落にも伝承がある。ざっくり言うととても人間とは思えないとにかく理不尽な強さなので関わってはいけないという警句の類いなのだが。
「でもなんでオークに?こういうのは人間って相場が決まってると思ってたんスけど」
他の人間寄りの亜人種ならともかく、オークなんか人間とは不倶戴天の敵同士。ガランバルド自身は人間に好意的だがそれくらいは常識として心得ているし、自分が勇者に選ばれるというのはあまりにも解せない。こんなオークで大丈夫か?
「アンタが面白そうだったからだ。っつーか人間は暫くいい」
「なんで」
「アイツらすーぐ浮気しやがんだもん。アタシはさぁ…」
彼女は面白くなさそうに足元の石ころを蹴っ飛ばし始めた。
「授ける祝福は『操を立て続ける限り』って毎っ回説明してんだよなあっ!なのにアイツら毎回毎回毎回毎回だれぞとイチャイチャチュッチュしやがるんだよ!人の話聞いてねえのかよ!お前らサルか!人間だし元はサルだよなあはいはいアタシが悪かったわクソが!もうやだっ!!」
「どうどう、落ち着いて、落ち着いて【聖女】サマ」
「はー、はー」
ひとりで興奮し始めた自称神様、かなり怖かった。
「えっとつまり、その【刻印】ってのを貰う代わりに勇者は『【聖女】に操を立てる』つまり他のヤツとイチャイチャすんなって条件を守る必要があって、今までの勇者はそれを守れなかったと。んで人間に愛想が尽きたのでちょっとオークでも勇者にしてみよっかなと」
【聖女】は肩で息をしながらこくりと頷いた。
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