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彼女の名前
次の日は夕方からスーパーのバイトだった。
大学が終わった午後四時から閉店の九時までが勤務時間だ。
大学の後に通うのに丁度いい事と、安く食材を手に入れられるからしているアルバイトだ。もう二年になる。
二年もここにいるのに、彼女の存在には気づかなかった。
きっと何度も彼女と会計のやり取りをしてるはずだ。だけど、全く気付かなかった。あのカフェで会うまでは。
存在に気づいてしまう前と後ではこんなに世界の見え方は変わるのかって思うほど、そわそわしてレジに立った。
せわしなく入り口を気にしたり、客の顔を意識して見たり、休憩でレジを離れる時も、店内をすみずみまで見てバックヤードに行ったりした。
「彼女?」
裏で、ウーロン茶を飲んでたら、同じ時間でレジに入ってたパートの鈴木さんに言われた。
言われてる意味がわからなかった。
「何の事ですか?」
「もう、佐々木君も隅に置けないわねー」
鈴木さんが勝手に盛り上がる。
「今日ずっと誰かを探してるでしょ?彼女が買い物に来るんでしょ?」
ウーロン茶に咽た。
「彼女なんていませんよ」
「またまた、隠しちゃって。いいわね、若いって。今はそういうのが楽しい時よね」
「違いますって」
いくら否定しても鈴木さんはわかってくれない。
彼女なんて、もう四年いない。
高校の時に付き合ってた子が最後だ。
その後はいいなーと思う子は何人かいたけど、いいなー止まりで何の発展もない。
休憩から戻った後も彼女には会えなかった。
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