彼女の名前

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「ニノマエ ナオミです。ナオミは直角の直に美しいって字」  一をニノマエって読む事よりも、直美という名前の方に反応した。  『痴人の愛』に出てくる女の名前と同じだ。 「直美さんですか」 「『痴人の愛』のヒロインと同じ名前だね」 「読んだんですか?」 「映画になってて、うちのお店にあったから借りてみたの。若い女の子にめちゃくちゃに翻弄される真面目な男の人の話だった。一人でこっそり観たんだから」  直美さんが恥ずかしそうに笑った。 「なんかムラムラしちゃった」  あっけらかんと凄い事を言う。 「のびちゃんも観なよ。言いだしっぺなんだから。お店でお取り置きしといてあげる」 「いいです」 「古いけど、エロイよ」 「だからいいです。そういうの見ないんで」 「この間18禁のコーナーから出て来たじゃない」 「直美さんってそういう事、ハッキリ言いますよね。普通、言わないんじゃないんですか?」 「デリカシーがないって事?」 「まあ、そういう事です」 「ごめんね。のびちゃんとは何でも話せる気がしちゃって」  急に声が優しくなる。  直美さんの声は高くもなく低くもない、丁度いい声だ。 「駅まで行くの?」 「はい」 「じゃあ、一緒に行こう。散歩コースなの」
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