彼女の名前

4/8
前へ
/44ページ
次へ
「戻って来た所だったんじゃないんですか?」  直美さんは向かい側から歩いて来た。 「気が乗らないから、早めに切り上げようとした所。まだ駅までは行ってない」  直美さんが歩き出した。  その隣を歩いた。 「なんで僕に構うんですか?」  歩きながら気になっていた事を聞いた。  最初から直美さんは親し気だ。 「なんで?」  直美さんは不思議そうに言った。 「のびちゃんがいい子だから」  いい子って言葉に落ち込んだ。  子ども扱いされてるみたいでイヤだ。二十才も年下だけど。 「小学生を褒めるみたいな言い方やめて下さい。一応、一人で生活してますから」 「一人暮らしなの?」 「大学に通う為にこっちに出て来たんです」 「頑張ってるんだね」  やっぱり子どもを褒めるような言い方にしか聞こえない。 「直美さんよりはしっかり生活してるつもりです」  ついそんな言葉が出た。  そんな事を言うほど、直美さんの事を知らないのに。  だけど、直美さんは怒りもせず「そうだね」と静かに言った。  急に直美さんを怒らせてみたくなる。怒った顔が見たかった。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

80人が本棚に入れています
本棚に追加