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「ほら、藤子不二雄先生の『ドラえもん』に出てくる。いつもドラえもんを頼る子」
「それぐらい知ってますよ」
「怒った?」
「いえ」
「怒ってるでしょ?」
「怒ってません」
「素直じゃないな」
女の人がクスクスと控えめな声で笑った。
調子が狂う。なんなんだ。この人。
「学生さん?」
「なんで答えなきゃいけないんですか?」
「だって最初に聞いたのは君でしょ?家とか、職場とか。今度は私の番ね」
筋は通っている。
「大学四年生です」
仕方なく答えた。
「じゃあ、就職活動中?」
「決まりました」
「すごいねー。おめでとう。春から社会人だ」
女の人がパチパチと拍手した。
店にいる人たちの視線を感じる。
「やめて下さい。目立ちますから」
「目立つ事嫌いなの?」
「日本人ならそうなんじゃないんですか」
「確かに」
女の人が僕から興味を失ったようにカウンターの方を向いて、元のように読書を始めた。
え?いきなり放置?
なんなんだ、この人。
「私ね、そこのレンタルDVD屋で働いてるの。だから職場は近いよ」
本を読んだまま女の人が言った。
それで謎が解けた。
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