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時々利用している店だ。だから見覚えがあったのか。
「ちなみに働いてる日は日曜日と水曜日」
文庫本から視線を上げた、女の人と目が合った。
好奇心に満ちたキラキラとした目だった。
胸がざわついた。
これから何かが始まってしまいそうな。そんな予感がした。
だけど、そんな色っぽい事が起きるはずがないのを知ったのは、次の日だった。
「いらっしゃいませ」
大学の講義が終わった夕方、スーパーのバイトをしてた。
レジに立って、商品をスキャンしていく。
「お会計、3526円です」
機械になったつもりで、決まった動作を繰り返していた。
「いらっしゃいませ」
手順通りに次の客に言った。
「あれ?君?」
驚いたような声に、初めて次の客の顔を見た。
「あっ!」
同じく驚いた。
昨日カフェで会ったのび太君発言をした女の人だ。
さらに驚いたのは、女の人の隣にいた存在。
「お母さん、本読んで来ていい?」
小学生ぐらいの子どもが女の人に言った。
お母さん――。
その響きが似合わない。年上には見えたけど、子どもがいる感じには全然見えなかった。
「奇遇ですね」
女の人が笑顔を浮かべた。
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