見覚えのある人

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「ここの店員さんだったんだ。見覚えがあるはずよね。私、毎日買い物に来てるから」 「そうなんですか」  言われてみればスーパーでも女の人の顔を見た事があった気がする。  話をしていると、列に並んでる客が早くしろという風に睨んで来た。  とりあえず機械的に商品をスキャンする。  だけど、女の人にじっと見つめられ、体が熱くなった。  やりづらい。  商品が手から滑った。 「失礼しました」  慌てて、菓子パンを拾った。  子どもが好きそうなチョココロネだった。  カゴの一番底にはコンドームの箱があって動揺した。  他の客だったら何も考えずに商品をスキャンするだけなのに、それを使う所が浮かんでしまった。 「気まずいね」  目が合うと女の人が言った。 「お会計、5963円になります」 「ゴクロウサンね」  ご苦労さん。その言葉がピッタリだと思える程、気まずいし、緊張する。  女の人が六千円で出した。 「37円のお返しになります」  レシートと一緒に小銭を渡した。  その時、指先が触れた。  触れた瞬間、さらに緊張した。 「佐々木君ありがとう」  名札を見て最後に女の人が言った。  さも親しそうに。 「ありがとうございました」  無表情に答えた。  動揺してるのを知られるのが悔しい。  のび太君(頼りなく弱い男)じゃない所を見せたかった。
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