見覚えのある人

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見覚えのある人

  コーヒーを持ってカウンターに座った時、隣の女の人と目が合った。  丸顔で、薄化粧の二重の大きな目が印象的な顔。真っすぐな黒髪は肩ぐらいまで長さがある。  どこかで見た事のある顔だ。しかし、名前が出て来ない。  大学の同級生ではない。自分よりきっと年上の人だ。多分三十才ぐらい。  そんな年齢の人で知り合いは週四でバイトしてるスーパーのパートさんか?  バイト先の人だったら挨拶した方がいい。しかし、目が合った時にするべきだった。  名前がわからないから、なんて声をかけたらいいかわからない。  “こんにちは”でいいのか?  その後はどうする?話が続かなくて気まずくなるだけじゃないか。  しかも、女の人も僕もコーヒーを飲みだしたばかりだ。  バイトのない日曜日ぐらい、ゆっくりコーヒーを飲みながらカフェでぼんやり過ごしたい。  下手に話しかけて気まずい想いをするのは嫌だ。  で、結論。  声はかけない事にした。  しらをきってコーヒーを飲みながら、スマホをいじってると、スニーカーの先に何かを感じた。  足元を見ると、赤い軸のペンが落ちてた。  拾い上げ、何となく隣の女の人を見ると目が合う。
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