ある男女の朝の会話

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「おはよう」 「朝ごはんできてるわよ」 「冷凍食品……じゃないな。コレ全部作ったの?」 「納豆だけ忘れちゃった」 「十分だよ。いただきます」 「たんと召し上がれ」 「つけものだけやたら多くない?」 「残したら許さないんだから」 「張り切って作りすぎだよ」 「ウフフ、ちょうどいい漬け物石が手に入ったの」 「包丁で指切らなかった?」 「わ、私を舐めないでよねっ」 「カットバンだらけの指で言われても……」 「切れ味が悪くなっちゃったのよ」 「煮物、なかなかいけるね」 「あらうれしい」 「酢の物もうまい」 「いいお嫁さんになると思わない?」 「キミならなれるさ」 「照れるわぁ」 「なんでもできるし、俺には勿体ないよ」 「は? そんなことないわ」 「皮肉じゃないさ。俺はキミには相応しくない」 「分からないこと言うわね。あなたステキよ」 「友達に言われたんだ。お前みたいなデブじゃ不釣り合いだって」 「他人に何と言われようといいじゃない」 「学歴も低いし」 「社会に出れば関係ないわ」 「イケメンじゃないし」 「顔面なんてただの飾りよ」 「低所得の癖に大食漢だし、これ以上キミに迷惑をかけたくない。だから」 「婚約してくれたのにそんなのないわ!」 「夫婦になったら、ますますキミに負担を……」 「老人になっても私の作った味噌汁が飲みたいって言ってくれたじゃない!」 「……確かに、そう言ったね」 「舌と胃に正直になって。私の料理を求めてるでしょ?」 「まあ、否定しないけど……」 「手料理、これからもあなたの為にうんと作るからね」 「食べさせていただきます……ってもうこんな時間だ」 「朝ごはんまだ残ってるわよ」 「会社に遅れちゃうよ!」 「ゲップ連発されても困るし、しょうがないか」 「携帯は持ったな。ハンカチは……」 「タッパーに入れといたから。お昼ごはん」 「天気予報は晴れ。傘はいらないな。じゃあ行ってくるよ」 「忘れものっ」 チュッ 「……ルージュ、変えた?」 「よく気づいたわね。ひと味違ったかしら?」
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