フェチに佇む。

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男のひとの 上唇の真ん中がちょっと 尖ってるのが好き 体つきは華奢なのに 意外にゴツゴツした手の甲が好き 白いシャツの袖をちょっと捲って パソコンを打つ仕草が好き もしそういう人と付き合えたなら、 ずっと隣でニヤニヤしながら見ていたいです。 え、私のことがもっと知りたい? 会社では仕事一筋、一応役職にもついてます。 ああ、社内の女性では最年少の課長とは言われてはおりますが、いいのか悪いのかはわかりません。ただ、がむしゃらにやって来たら、いつの間にかそうなっておりました。仕事は辛い事も多いですが、たまーにちょっぴり良い事もあるので辞めたいという程でもありません。 現在は32歳、独身。彼氏は欲しいですが、平日のアフター6デートは残務がありますので、おそらく無理です。土日もどちらかは出勤しております。そうでないと仕事が終わらないのです。はい、ええ、それでもよろしければ、是非ご連絡下さい。 それより最近の悩みは10こ下の部下、織田君のことです。そう前述のフェチを総て網羅したフェチ記念人物です。 はっきり言って視界に入ると見惚れてしまって仕事になりません。なので、仕事中は必要最低限の接触で後は見ないようにしております。 間違っても、口から透明な汁が出ては社内イチ、クールで美人で地頭のいいと噂のわたくし、香取紗耶香のイメージというものが総崩れしてしまう可能性が否定できないからです、はい。 ですが、この反動か、毎日の残務後の家での楽しみが変化いたしました。 今までは、漫画アプリでオフィスラブ漫画を読み漁ったり、恋愛ドラマや映画をベッドで見ながら寝酒の日々でしたが、今は織田君との同棲やらデートやらを”彼が自宅にいるつもり”で楽しむということでございます。 一人暮らしのマンションで「ただいま♡」「おかえり♡」「待ってたよー、お帰りのキスは?」「はい、チュー♡」と言いつつ靴を脱ぎながら一人でブツブツ言っているのが最近の私の帰宅後の様子です。楽しくてたまりません。 休日も凝った手料理を作ってみては、「はい、あーん♡」「旨いな、これ♡」とやっております。 こんな姿を呆れて観ているのは、観葉植物とリビングのカメレオン君だけです。 もちろん、ここだけの秘密です。 家族にも友人にも言えません。 叶わないままでよいのです。 恋愛には至らない、まあ、趣味の一つですね。 え、イタイ?まあ、イタイかもしれませんが、誰にも迷惑はかけておりませんし、お金もかからないのでよいのではないでしょうか…。 ですが、ある残業の夜、事件が起きました。 織田君が自席で居眠りしております。 これは上司としては起こさないといけないと、そうっと近寄ります。 それはまあ、綺麗なお顔でした。 社内の女子が蜂のように群れ集まるのもわかる気がします。 こんな機会は滅多にないので、寝顔をじっと拝ませていただきます。 すると綺麗だけれど、よく見ると目の下にうっすらと青白いものが! ああ、疲れて眠っているのは間違いありませんね。 今朝から何件もの営業先へ外回り。 帰って来ても積み上がる書類の山また山。 先輩社員にもいろいろ細かい雑務を頼まれてあっぷあっぷの筈なのに文句も言わずにこなしている君。 フェチな外見もそうだけれど、どんな状況でも 真面目に取り組んでいる姿が一番、惹かれます。 ----きっと今、しんどい時だよね。 私もその業務をやっていたから、わかるよ。 でもきっとあと二、三年もすれば。 揉まれ揉まれてはいても、ちょっと漂えて、ああ、こうすればいいのか、ちょっと慣れて来たかもってある日ふっと思えるようになるからね。 それまでは、どうかここを辞めないでいてね。 彼は私が課長になって初めて迎えた新入社員です。 切なる願いを込めて、彼の下からそうっとやりかけの資料を引き抜きました。 本当に触れたいのは、彼自身だったりするけれど、 上司として私に出来る事はこれしかありません。 ……半時後、飛び起きた織田君は 終わった資料といない私に 気がついて慌てて会社を飛び出して まだ近くを歩いてた私を呼び止めました。
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