君はさ、夜のことを考えるけれど、

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君はさ、夜のことを考えるけれど、

 おはようって、思う。思うだけで、言わない。周りに自動販売機くらいしかない。こんな早朝、そんなもんだよな。  夜について、考えている。夜の色が、何色だったか。 「ブラックと、黒と…」  わかんない。他の色が。えーと、多分、月の光とか、そういうの。だから、白だ。  そうか、ホントに、月は仲間外れなんだな。知らないけど。そう思った。 「でも、地球も、青だからな。割りと、問題ないよな。この世は、実は仲間外れで、出来てる」  そう、呟いた。 「えー、何呟いてるの?」  聞かれた。クラスメートがいた。 「呟いてません。最近は、自動販売機も喋るんです」  何考えてるんだか。自動販売機は、最近じゃない方が、喋るイメージがあった。10年くらい前に、そんな自動販売機を見た覚えがある。 「そんなあ、別に、呟くのは、人の本質だよう。自動販売機のせいにしなくていいよう」  クラスメートの笹木さんが、そう言う。ありがとう、なんだか、少しだけ、そんな気がしてきた。気がしてきたってことは、半分くらい真実なんだと、半分くらい思った。 「野本さんは、こんな早朝に、何してるの?」 「夜について考えてました」 「あー、だから、自動販売機のそばにいたんだね」  どういう意味だろう。よくわからない。 「自動販売機って、夜っぽいよね。夜行性」  そういうことか。そうか、自動販売機って夜なんだな。夜に生息してる。確かに。  商品を眺める。カラフルだ。 「笹木さん、どうもありがとう」 「んー?私、感謝されるようなこと、多分言ってないよう」 「物事は、観測対象外でも、進行するものです」  そう言って、少し空を見た。普通に、もう朝だ。夜は、もうあんまり残っていない。 「学校に、行きましょう。それで、今日が始まります」 「学校、こんな早く行くの、実は初めてなんだ」  他愛もない会話で、世界を少しだけ、染めた気がした。気がしただけでも、半分染めている。
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