デート

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「紗子さんは今までの店で何か気になるものありましたか?」 「ん~」 少し悩むと紗子は首を振って、会計をするクリスを待った。クリスが代金を支払って品物を持って店から出てくる。 「気に入った?」 「はい、とても! 宝物にします」 たかがTシャツに宝物は大袈裟だな。でも紗子が選んだものを大切にしてくれるのなら嬉しい。 それからまたぶらぶらと通りを歩く。あちこちの店に入ったり、軒先を冷やかしたりしながら、クリスの学校の展示会の話も聞いた。見に来て欲しいと言われたが、日程的に忙しい時期だったので、また今度ねと言って、その話は終わった。 ふと視線の先にナチュラルテイストな店構えのパンケーキ屋さんがあった。丁度散歩をして小腹がすいたところだった。クリスにどうかと尋ねると、ぜひ行きたいと言う。道には男女構わず入店を待つ人が並んでいて、紗子たちもその最後に並んだ。 「紗子さんの作品を見てみたいです」 並んでいる間にクリスが言うから、まだ仕上がっていないラフ置きの状態のデザイン画を何件かスマホから表示させて見せてやる。クリスは興味深そうに、どういうところに気を配って作るのかだとか、お客さんとのやり取りはどんな風なのかだとかを聞いてきた。 「ふふ。まるで就職面接みたいね。クリスくらい熱意があったら何処でも受かると思うわ」 「そうですか? だったら、紗子さんの会社に入りたいです。紗子さんの後輩になりたいです」 そんな理由で会社を選ぶなんて初めて聞いた。笑うと、本気なんですよ、と拗ねられてしまう。 「ごめんごめん。でもそれじゃあ面接通らないわよ。もっとちゃんといろんな会社見てから選んだ方が良いわよ」 まっとうな先輩の意見にクリスも、そうっすかね、と照れながら頭を掻いた。でもそれくらい慕ってくれているのは分かるから、かわいく思えてしまう。 今まで、手の届かない人ばかりを相手にしてきた。だからこんな風に素直な好意を惜しげもなく向けられたことがなかった。『振り向いてくれない人を追っかけてるよりも、好意を持たれる方が心地良い』とはよく言ったものだと思った。
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