エピローグ

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* 初めてのデートは空振りに終わった。もうアクセサリー店が閉店の時間だったのだ。店の前でシャッターを見て、和久田と一緒に吹き出した。こんな、様にならない始まりもありじゃないか。そう思ったら、肩の力が抜けた。 和久田には「次のデートの時にな」と言われた。同じ『デート』なのに、クリスの時とは響きが全然違う。 『恋人だから』なんだろうなあと思うと恥ずかしかったけど、嬉しかった……。 * そのあと、二人でラーメンを食べに行った。浜嶋と行くイタリアンでも、クリスと行くパンケーキでもない、凄く紗子の胃袋を掴むラーメンと言うチョイス。 「私もお腹空いてたの」 そう言って、二人でラーメンを啜る姿は、周囲が見たら『デート』とは程遠いと言うだろう。それでも紗子は良かった。和久田が紗子の目の前に居てくれて笑ってくれていること。紗子に寄り添ってくれていること。……紗子が笑っていられる為に、和久田が努力してくれること。和久田が紗子の為にしてくれること全てが嬉しかった。 (……私も、和久田くんが笑ってくれる為に努力したい) 今まで好きな相手からやさしくされると嬉しかったけど切なかった。でも、和久田のやさしさは紗子のやさしさを生む。幸せの循環が其処にはあるような気がした。 (だったら、私たち、上手くいくんじゃない?) 初心者のくせに、そう思う。それが永遠であればいいと、紗子は思った。 週明けの職場。浜嶋に呼ばれて資料を確認する。浜嶋が資料の上で滑らせる手にプラチナが光っても、紗子の胸は痛まなかった。 紗子の首元に光るのは、所有のしるしの銀のネックレス。プラチナには劣るけど、プラチナに負けない輝きが、そこにはあった―――。
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