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週明け月曜日、紗子は週末の間に溜まったメールの確認と、着手中のデザイン画の起こしで時間を取られていた。休憩も忘れて夢中になって画面を見ていたら、ふと画面が陰ってなんだろうと振り仰ぐと、和久田が其処に立っていた。
「……なに? 仕事中だけど……」
「……週末、浜嶋主任とまたあの店行ったってホントか」
なんだその話か。今更否定する理由もなくて頷く。すると和久田がちょっと顔を歪めた。
「もう未練ないんじゃなかったのか」
そんなこと言われたって、困る。気持ちは理性でどうにもならないし、二年間ずっと好きだったのに、嫌いになったんじゃないから、なおさら急になんて変われない。ましてや、和久田は紗子に何か言ったわけではないのに。
「和久田くんに、なんでそんなこと言われなきゃいけないのか分かんない。だって、貴方、何も言わなかったじゃない」
不満をぶつけるように紗子がそう言うと、和久田は、はあ? と声を上げた。
「何も言う気がないなら、放っといて。私、忙しいのよ」
そう言って和久田を追い払うようにしっしっと手を振る。丁度パーティションの向こうから、会議だぞと和久田を呼ぶ声がして、和久田はしぶしぶ去って行った。其処へ入れ違いで詩織が来る。
「荒れてるわねー」
「荒れてない」
詩織が財布を持ってきていたので、紗子もデータをセーブすると財布を取り出して自販機コーナーまで休憩がてら歩く。
廊下の突き当りに設置されている自販機コーナーは十五時と言うこともあって賑わっていた。二人も小銭を投入口に入れてボタンを押す。
ガコン、と音をさせて出てきた缶を持ってその場でソファに座ると、缶のプルを引き、ひと口コーヒーを飲んだ詩織が口を開いた。
「この前、和久田くんと付き合うことになったって言ってきてたじゃない。早速喧嘩?」
紗子も缶ボトルのオレンジジュースをひと口飲むと、仏頂面で、それ訂正、と詩織に言った。
「訂正?」
「そう。だって私、和久田くんになにも言われてないもん」
「なにも、って?」
理由が分かっていなさそうな詩織に説明するのは少し恥ずかしい。
「だから、付き合おうとか、言われてないもん、私」
紗子の言葉に、詩織がびっくりした顔をした。
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