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かくかくしかじか、と、これまでのいきさつを事細かに伝えると詩織はもう一度びっくりした顔をした。
「えっ、それは付き合おうって言われてるようなもんじゃない?」
なんだ、詩織は和久田の側に着くのか。ちょっとムッとして、でも言われてないもん、と応える。
「言葉にしなきゃ分からんじゃない。私は、和久田くんと付き合うことを約束してないし、和久田くんも私に約束させてないもん」
だから、どんな拘束も出来ない。紗子が浜嶋に誘われて食事に行くのも、クリスとデートするのも、止める権利はない。
そう言うと詩織は渋い顔をした。
「……それは、和久田くんが可哀想かなあ……」
また和久田の肩を持つ。本当にこの話に関しては、詩織と意見が合わない。どうして和久田が可哀想なんだ。紗子の方が可哀想じゃないか。だって、好きって言ってもらったのに放っておかれてるんだから。
「ずっと、和久田くんが何か言ってくるかなってどきどきしてたのよ。でもなにも言ってこないし、なんなら和久田くんに会えなかったし……。好きって認めた次の日からそんなんだったら、ちょっと本気なのか疑うじゃない?」
紗子の論に、詩織は天井を見上げて考え込んだ。そうだな、確かに和久田も言葉が足りなかったんだなと思う。思うけれど、好きだと告白をして相手もそうだと言ってくれたら、其処から始まる時間は二人の時間なんじゃないのか。詩織はそう言ってみたけど、紗子の機嫌は直らない。
「……だって、私、初めてなんだもん……。教えてくれなきゃ、分からないわよ……」
成程、それで拗ねているのか。これはいよいよ和久田の分が悪そうだ。詩織は紗子の頭をやさしく撫でた。
「……和久田くんから何か言ってくれると良いわね」
「……もう知らない、あんな人……」
頬を朱(あか)く染めて、紗子が言う。口ほど和久田を嫌ってなさそうで、詩織は安心した。
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