#1 嘘と真

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#1 嘘と真

…元気に…してるかな… アタシは早めに学校を切り上げて少し遠くの繁華街まで足を運んでた。 学祭の後から春輝の姿を見なくなった。 まぁ、疲れた様子だったから暫く休んでるのかも… なんて… 思っていたけど、… 日に日に不安な気持ちになっていく もう学校には来ないのかな? 急に冷え込み始めた秋の空。 綺麗な色。 オレンジのようなピンクのような… そんな淡い夕空が余計に彼を思わせるのか。 2年生のクラスに隣接する廊下も… なんか静かな気がして。 …変わらないのかもしれないけど… アタシにとっては、なんか全然違う景色だ… 学祭で春輝が眠いからと膝枕をして寝かせてあげた時間の方がよっぽど学校にいる意味を感じてたような気がする。 一緒に出かけたのも…楽しかったな。 やっぱり見た目のこともあるだろうけど… 話してると気が合うというか、 安心する… どこに行ったんだろう。 また、会えるのかな… 中間試験も終わっちゃったし… 本当に…もう来ない…のかな? 「泣くなよ、お前…お兄ちゃんなんだろ?…お兄ちゃんは笑ってないとさぁ?」 声がする。 そう、こういう安心する声だったな。 柔らかい春の日差しみたいな… …こう……いう…さ… 子供の頭を撫でてる黒い服を着た男の人は、 暗い髪色だけど…サングラスも無いけど、 ……… 思わずアタシは物陰に隠れた。 「うっ…でも、せっかく挑んだのに…また負けちゃった……弟に勝てないよぉ………」 小さな男の子は泥だらけで泣いている。 「俺も昔はね、ずっとそうだったよ…弟の方が強かったし…ずっと守ってもらってた。 …でもさ、それでも…お兄ちゃんにしか出来ないこともあるよ?…せっかくの兄弟なんだから…仲直りしてきな?」 飴を二つ渡して彼は男の子に優しく話しかけていた…飴を手にした男の子は泣き止む。 「ね、2人で食べな?」 「…うん…」 男の子は棒のついてる飴を両手にそれぞれ持って嬉しそうに笑っていた。 「あら、こんな所にいたの?」 小さな子供を抱いたお母さんらしき女性が近づいてくる。 「まま…」 「探したわ!行くわよ!…ごめんなさいね…いつもこの子フラフラしてて……飴もらったの?全く……あ、良かったらこれ…そこの水族館の割引チケットだから…どうぞ?」 「いや、俺別に…」 母親は忙しなくチケットを彼に渡して去ろうとする。 「さ、行くわよ。」 「お、お兄さん!ありがとう!」 子供の笑顔に彼は困ったように笑って手を振る。 「ん…またな…」 と、切なそうに子供を見送りチケットを眺めていた。 「お兄ちゃん…に…なりたかったなぁ………俺、弟なんだよな………水族館…か………」 独り言を呟く姿をじっと見ていたが… もし、このチャンスを逃したら… いつ会えるかわからない。 話しかけてみようと ゆっくりと近づいて 「春輝?」 弱々しくも彼の名前を呼んでみた。 「……えっ…」 私を見るや変な沈黙が訪れた… そうだよね、この場所は結構学校から離れてる場所だから、驚くのも仕方ない。 …電車を乗り継いで来なきゃいけない場所だし… アタシも驚いてる。 「…レイカか…よく俺ってわかったね…? ちょっとびっくりしちゃった〜……」 複雑そうな顔で言うから何か後ろめたいことでもあるように見えた。 「やっぱそうだった…なんか、そーかなーと思って。」 困ったように私が笑うと少しだけ目を逸らした後、ふっと微笑んで、 「ん…なんかちょっと気づいてくれたの嬉しいな…」 と言って嬉しそうに笑う姿を見たら、 いつもの春輝だと安堵した。 「や、ちょっと不安だったんだけどね。人違いじゃなくてよかった…」 「ねぇ、レイカ……これいる? 水族館のチケットなんだけど…友達とかと行かない?」 チケットを目の前に差し出され、続けて 「…それか…いや、やっぱいいや……」 と小さな声で呟くので不思議な感じがした… 一緒に行こうって…いつもなら言いそうなのにな。 「……水族館?え、春輝…それなら一緒に行こうよ」 今からでも充分に見れるし、もう少し… 一緒にいられる時間作れないかな。 そんな風に思って声をかけたら、 ちょっと困ったような悲しい顔でアタシをじっと見つめた後… 「……手…繋いでくれたら、一緒に行けるかな………駄目?」 手を繋ぐ…? …弱ってるのかな? そんな気がして手をぎゅっと握った。 ……冷たい手……温めてあげよう。 「…ん。いこ?」 なるべく笑顔で答えると、ゆっくり水族館に向かって歩き出した。 ここからさほど離れていない。 ビルの中にあるお洒落な比較的新しい数年前にできた水族館だ。 本当ならカップルとか家族とかで行くのかな…? 友達同士でもいいよね。 「ありがとね…… 水族館ってさ…嫌なこと思い出すんだよね。 嫌いとかじゃないんだけど… 凄い久しぶりに行くなぁ… みんなは元気そう? 学校行ってないから全然わかんないんだけど…」 歩きながら春輝が話し出した。 意外と話しかけてくれるから、 いつも話しやすいんだよね。 …いつもと変わらないようで嬉しい。 「……へぇ……なんか、あったんだね? まあ…ほら、今は違うかもしんないでしょ?行くのはアタシだし、行ってみよ、せっかくだしさ。 …みんな元気だよ?春輝全然学校いないよね 」 水族館で何かある…か… ちょっと引っかかるけど、 あまり深く聞かないでおこう。 今は話してくれればいいから聞き手でいようかな。 不意に見上げると悲しい顔をしていた。 「昔ね…でもそう…昔のことだし、 …今はもう平気だと思う。 …なんか、 レイカがいると安心するなぁ… …めちゃくちゃ落ち着く。 みんな元気でよかった。」 そうやって言うくせに…悲しい顔をする。 どんな言葉なら楽しませてあげられるんだろう。 「じゃあ、大丈夫。昔と今はきっと違うよ。 しんどかったら、出たらいいし… 嬉しいな、アタシも春輝といると気楽なんだぁ」 これは本心だから。 ぎゅっと握っていた手に力を入れてしまった。 その行動も全く嫌がらずに手を握り返してくれた。 エスカレーターの登りに乗った瞬間… 「俺ね、学校やめようかなって…思ってんの。」 振り向きもせずにそう言われた。 「……辞めちゃうの?」 アタシの声に、ゆっくりとこっちを見てきて目があうけど…何を考えてるんだろう。 「どうしようかなって……結構…息苦しいんだよね。」 そう言った声は溜息をつくように怠そうで、 「そっかぁ…息苦しい、ね、わかんなくもないかも」 思わず同調してしまう。 周りに合わせてるだけで疲れちゃう。 時々、なんで学校いかなきゃいけないんだろうとか考えてしまうこともあるし。 エスカレーターを降りると、 水族館の入り口が見えた。 人気もなくてかなり空いている… 人混みとかあまり待つのは好きじゃ無いし、 待たずに入れるのは有り難い。 「正直、ちょっと最近やりすぎたなぁ…」 「?」 不意に出た濁すような言葉に何を言いたいのか、 よくわからなくて聞き返そうとしたけど先に遮るように喋られてしまう。 「着いたな……なんか、割と平気かも。 レイカだからかなぁ…… 中学以来だ……ちょっとワクワクしてきた」 ゲートを潜ると鮮やかな青が広がっていた。 綺麗……… 「わーここ?おっきーねー…ね?案外行けるっしょ?」 「……中学に来た時は、もっと大きく感じたのになぁ……俺は、ちょっと小さく感じる〜……」 大きな水槽に近づいて 暫くじっと眺めていると春輝が急に話し出す。 「魚可愛いね…みんな頑張って生きてんだなぁ…… こんな狭い世界だけど…… 水槽の中で、息苦しくても楽しみを探して頑張ってんのかなぁ………… ……もっと広い世界があるのにさ………… なんて…、 捻くれすぎか…」 世界…か、 何か自分の置かれてる立場とか、 状況に悩んでるのかな? …アタシなりに返答すればいいか… 「魚かわい〜よね〜、癒される。 どーなんだろーね、 ほんとはさ、おっきい海とか泳いでるじゃん? それでいえば狭いだろーけど、 そこが世界になったらそこで生きて楽しみ見つけるのかな〜。 そう考えたら凄いよね。 広い世界、、、 でもさ、それって人間も同じだよね。 狭い世界で生きてるなって思う時あるもん。」 さっきの息苦しいって話に繋がるのかな…? 春輝は…狭い世界にいるの? 「俺もこの中の1匹に過ぎないんだよな… …どうやって楽しみ見つけんのかなぁ…? …俺は…もう全部辞めたい……」 辛そうな顔で目を細めてじっと魚を見つめる…そんな横顔を見ていたら、慰めたくなって返事をしようとした瞬間、 「……ねぇ、ちゆ……」 と、思わぬ名前を聞いて胸が痛くなった。 ちゆ?…って、千雪…だよね… 「……悪い、……違う……」 思わずアタシと繋いでいた手を離して目を覆っていた…… 「…、アタシはレイカだよ、春輝…」 声が震えた。 別に、なんとも思わないよ… わかってる、好きなんだよね…多分… なんとなく、そんな気はしてた。 … …わかるよ… 「ごめんな…レイカ……なんか千雪といすぎたっぽい…苦しい…」 …ちょっとだけ沈黙が訪れた… 嫌だな…この空気… 「ってかさ、春輝は春輝っしょ、アタシはアタシだし。同じ人はいないよ… 楽しみ………やりたいこと言ってたじゃん前? まぁ… 辞めちゃってもいいとは思うよ…全部一回ね。」 無理に話しかけるのはよく無いかもしれないけど、 この沈黙は凄い怖いし… 繋いでいた手さえもう一度取るのが怖くなったから、胸の前で手を仕舞い込むようにする。 「前さ…ちゆと…付き合ってないって言ってたけどさ…春輝は、好きじゃないの?」 思わず確信になることを聞いてしまった。 聞きたく無いけど聞きたい。 こんなもどかしいなんて…なんか嫌だ… 「俺は俺で…レイカはレイカか…」 覆っていた手を下ろして笑いもしない冷たい顔で、そっと口を開いた。 「告白したよ…? 俺、千雪が好きだって…伝えた… でも…返事もらえてないし、脈なし…かなぁ… まぁ、わかる… 俺そんな… いい人間じゃないもんな。 …… 夢とかさ… いっぱいあったけど…」 アタシの左の手をとって春輝は少し屈んだかと思うと自分の右目の目蓋に触れさせて。 「見えないの、右…全然見えなくなっちゃった…」 なんて、無理に笑っていた。 見えない?なんで?… どういうこと? 「…!…え…いつから…?」 慌てて瞼を撫でるように触れると、 嬉しそうに手を重ねて笑っていた。 面白い話じゃないのに。 笑わないでよ。 …いろんなことがアタシまで苦しくなる。 …告白か… 好きなんだ…な… 「……そっ、か、伝えたんだ、ね…… 脈ナシじゃなくて考えてんじゃないかなぁ、ちゆはちゆで。 少なくとも私はいい人間じゃないなんて思ったことないよ。 じゃないと今一緒にいないし。 春輝には春輝の良さがあるんだよ、 魅力的なとこもたくさんあるよ。 だから、自信もって? 難しいかもしんないけど、 きっと何かしら返事するだろうから、さ。 ほら、憶測で肩落とすのよくないっしょ!ね!」 「うん、ありがとう… レイカといるとなんか、 …ホッとする… 嬉しいな…ありがとう…」 ゆっくり違う水槽に移動していくと、 不意に立ち止まってアタシの方を見る。 「千雪はね、好きだった人がいるんだって、その人を待ってるんだってさ…… だから、俺じゃないんだよ。 …いつもそうなんだ… 大体、望まれて立っていられる場所がいつもなくてさ…」 「…あー、、そういうことなんだ……」 返す言葉が浮かんで来ない。 苦しいって言った言葉の意味がわかるよ。 アタシまで苦しくなるぐらいに。 …そっか、待ってる人か… アタシは、春輝が学校に戻ってくるのを待っていたけど…これじゃ戻りづらいのもわかる。 どうしてあげたらいいのかな… 「俺ね、鷹左右兄弟の“弟”って言われてるけど… 本当はお兄ちゃんなんだ。 先に生まれた…僅差だけど… …でも、疾患があったから、 改変されて弟にされちゃったの…… 稼業も継がせてもらえない… そんな弟になり下がっちゃって… …結局、目が悪いのは、小学生からだけどさ… 治さないでいたら… 悪化して… つい数日前から見えてないよ。 手術…… すれば、間に合うのかな。 なんか…もう… いいやって…思って。 ごめんな、別に… こんな話…するつもりじゃなかったのにさ… せっかく水族館きてんのに…」 ふわふわと浮かぶ海月を見つめる。 優しい声でアタシに話しかけてくる春輝は 無理してるようにしか見えなかった。 …魚とか見てる場合じゃなくて… いろんな言葉に返事をするのが精一杯で。 「疾患理由で、弟に…… そんなの、親の…エゴじゃん… ……… 春輝は、稼業継ぎたいの? 好きなこと、したらいいと思うよ、そんな、しがらみ、投げ打ってさ… 継ぎたいなら、別なんだけど… 春輝にしかない、春輝にしかできないことたくさんあるのに、それをなんで見てくんないんだろ、、 ……… 手術、無理にしなくてもいーと思うよ。片目が見えなくても、なんにも変わんないと思うし。 もちろん…見えた方がいいんだろうけど… なんか、ごめんね、なんにも知らないのに。 春輝はもっと自由になっていーと思うんだ。 これはアタシのエゴだけど。 自由に生きてると思ってたからさ、 会った時…かっこいいなって思ってたし、 だから仲良くなったし、 いまもかっこいいと思ってる、…からさ。」 精一杯応えた。 優しくて自由な人で、一緒に話すと落ち着く。 似たもの同士みたいに…思ってた… きっと同じ水槽の中にいたら周りの魚より派手で… なんか浮いた存在で… ほら、あのサメとかマンタみたいなさ、 存在感あるやつ…みたいな… カッコいい…やつ… そんな風に水槽を見つめていると、 春輝が唐突に話し始めた。 「…俺最近までは好きだった子忘れらんなくて… 過去にずっと囚われてた… 水族館は、 その子と最後の別れになった場所だから来るのが怖かったんだ。 …俺を恨んでた奴の手でさ、好きだった子がね…事故死してさ…本気でもう誰かを好きになるのは… やめようと思ってた… でも、千雪がいろいろ俺を変えてくれたから… なんかまぁ…… 途中までは…よかったよ… …でも、返事がないままだし、 …他の待ってる人の話を聞いてさ… …じゃあ…俺は居ても意味ないのかな… …ってね… 実は、俺… 薬物に手を染めちゃった… やばいよねぇ… どうしようか… シキコー行ってらんないって思ったのは、 そのせい…かな… お母さんが俺にそっくりでさぁ…… 病気で死んでるから親父がね… 過保護にしてるみたい。 継げるものならさ継ぎたかったけど… 夏月が頑張ってるから俺はもう、 家には戻らないし。 絶縁状態に近い…よ… 自由だからこそ…辛いのかなぁ… ありがとね、 考え過ぎなんだろうけど、 ひとりになるって、 いいことかなって思ってたけど… そうじゃなかったのかな…? レイカと話せて良かったよ。 俺は自由に生きなきゃいけないから… やりたいこと、やれるだけさ… やらなきゃって気持ちはあるんだ… …俺の体、今のところ異常は目しか無いけど… いつか、お母さんみたいになんのかと思ったらさ、 なんか、追い立てられてて。 …でもまぁ、やりたいことか… …今は眠りたいな。 てかさ、 …レイカが謝らなくていいから。 俺がこんな話しちゃってんのが悪いんだし。 むしろ助かるから、ありがとう。」 ………ただ、黙って聞いていたけど……… …疲れてるんだろうな… 思わずアタシが泣きそうで堪えてた。 アタシが泣いてどうするの? …喋らなきゃ… 「事故死……それは、トラウマになるね… ちゆと仲良さそうだったから、、 ごめんね、変なこと聞いちゃって… いる意味無くなんてない、よ 私は、少なくとも私は、 春輝が必要だし… 薬物って、もうやめられないものなの…? あ、あんま、 よくわかってないから、 変なこと聞いてるかもしれないけど… そこから春輝を救い出せば、普通に戻れる…? じゃあ、じゃあだよ、 もういっそ、そうなるなら、 春輝は春輝になってしまえばいいんじゃないかな、鷹左右って名前だから、 苦しいんじゃ、…ない?違う? 考えることはすごく大事なことだよ。 一人になってもいいけど、 独りになろうとしないで。 アタシは… アタシはどんな春輝でもそばに居る。 話してくれて、アリガトね。 手術がまだいけるなら、 手術してさ、新しくなるのも、1つだよ。 やりたいことやらなきゃ!って追い詰められてるの、かな? それがしんどいこと、…ない? なにか起きるかもしれないし、 なんにもないかもしれない。 未来はわかんないから、 今のできるキャパシティだけでいいと思う。 ちゃんと、寝れてる…? 水族館出たら、どっか行く?付き合うよ…?」 思わず服の裾を掴む。 どこかに消えてしまわないように。 いなくならないように。 アタシに…出来ること… 「レイカ………… 凄い気を使わせちゃってんね。」 ふわりと笑ってアタシの掴んだ手をそっと離す。 拒絶…かな?寂しい… 「いやぁ、………千雪は……ね、 俺とレイカがお似合いなんじゃないかってさ… 言ってきたんだよね……… なんかその瞬間、 もう無理なんだなって思っちゃった。 …俺別にレイカのこと嫌いとかじゃないし、 そう見えるのは嬉しいけど。 告白したのにさ、 千雪の口からそれ言われたら… もういいやって諦めるしかないように思った…」 駄目だ…目から溢れそうになる涙が堪えられない。 アタシの目からポタリと落ちてしまい、 思わず頭をふる。 「やだな〜そーやって気を遣い返すのよくないよ?アタシに…くらいさ…? ……っそ、んなこと言われたら、なんか、ね、春輝の気持ち…が…辛いじゃんね…… アタシは…嬉しいけど、好きな人にそう言われたら、辛いね…」 気持ちがぐちゃぐちゃだな。 アタシなんでこんな…励ましたいはずなのに… 春輝から出る言葉… 全部が胸を締め付けてくるから… 好きな人に…1番言われたくない…よね… 千雪も悪気があって言ってるわけじゃないんだろうけど…アタシでも同じ立場だったらキツイかも。 「薬物は、 ……やめようと思ったら…やめれる気はする。 …現に、レイカと一緒に居ればなんか落ち着くなぁ…って感じもするし…」 そっと、春輝が大きな水槽の前にあるベンチに腰掛けるから、一緒に座る。 「こんなものにさ……、 縋った所で、全然変わらないのね… 全部意味ないんだよ。 なんかこう、 自分のする事ひとつひとつが無意味に感じて… めっちゃ弱音吐いてんね。 本当にごめん、まともに人と話したの久しぶりで… …病院行くよ… ちゃんと…診てもらうのは… した方がいいよなって… 思うし…」 …弱々しい声に思わず抱きしめてあげたいけど、 アタシ…そういうことするタイプじゃないし… 我慢…しなきゃ… 思わず手を膝の上でぎゅっと握る。 「急いでやめろなんて言わないけど、多分、続けてもいいことなさそうだからさ… わかんないけど!イメージね、 …他で補えるなら、きっとやめれるよね、 もし…もしアタシがそうならそうでいいと思う。 ほら、アタシはなんであれ一緒にいるし、ね? 頼るとこ、なかったんじゃない…? だから、そうなったって言い方悪いけど… 意味無くなんてないよ、現にアタシは春輝といて落ち着くし、いろんなこときけて、 春輝のこと知れて、嬉しいし。 頼ってるとは違うかも知んないけど、 アタシは嬉しいよ、 春輝がいて楽しくなったこと、いっぱいある。 凄く、意味があるよ。 謝らないで? 弱音吐いてくれてありがとう。 それで少しでも楽になるなら、 変な気の遣い方しないで?」 目を合わせずらくて狼狽えながら必死に話しかけていると不意にアタシを覗きこんで、 にっこりと春輝が微笑む。 困った顔をして、 「レイカさぁ、 俺を信用してるのかもしんないけど… 水族館出た後…俺に付き合うってさっき言ったよね? 寝るために行く場所って? ちゃんと考えた? そんな俺は、…いいヤツじゃないよ? …寝るためにどっか行こうってなったら絶対ホテルとかじゃん? …女の子なんだから、 そーいうの大事にした方がいいよ。 俺、平気で手を出しちゃうと思うし、 ……言ってる意味、わかるよね?」 見た目は…そうかもしれない。 春輝は見た目がチャラいってみんな言ってたけど、 話してると…そんな気はしない… アタシの勘違いでも…なんかもういいよ… 助けてあげられないのかな。 「……そう、なのかもしんないけど。 しんないけど… 信用してないとこんなこと言わないし、 アタシは春輝だから言うんだよ…っ さすがにそんなこと、 私でも分かるよ? そうなったことはないけど 危機感ないほど頭弱くない。 春輝は、 そんな簡単にアタシに手を出さない。 信じてるのっ 春輝は信じちゃダメって言うかもしんないけど… 信じてるんだよ…っ」 声を荒げてしまって少し耳が熱くなった。 人が少なかったのは良かったのかな。 目も熱い… なんで止まんないんだろう。 悔しい。 普段こんなことないのにさ。 おかしいな。 「泣かないでよ」 優しくアタシの頭撫でるから余計に溢れてくるし。 あーもう…… 「別にさぁ、 俺は傷つくのに慣れちゃったっていうか… 諦めるようになってきちゃったから… レイカが泣かなくて大丈夫よ? 俺が虐めたみたいじゃん… 元々初恋の子とかにも「怖い」とか「嫌だ」とか言われてきたし。 俺多分距離が近すぎるのかもなぁって… 好きになるとね、 なんだろう… 独占欲っていうのかなぁ… 全部自分のものにしたくなっちゃうんだよね。 そーいうの良くないんだろうけど… 重いんだなって… なんか今は、わかんないや。 千雪の事…好きかどうかも、 わかんない。 まぁもう学校いかなければ会うこともないだろうしさ… 考えないようにしてんだけどね… レイカ…ありがとうな、 クラスも違うし、 最初仲良くなれるのか分からなかったけど話してみたら結構楽しくて夏祭りとか学祭とか一緒に回れたの嬉しかったよ? …なんか、普通に話してられる時間っていいよね。 現に落ち着いてきたのは、そーいう所なんだけど… レイカも落ち着くって言ってくれて嬉しいし、 でも今…凄い迷惑かけてんだよなぁ。 やっぱりさ、 嘘ばっかついちゃうからいけないんだよね。 ごめんな… やっぱさ、 …俺を信じたら駄目だって。 現に、そういう行為をしてない訳じゃないし… 平気でやるような人間なんだ。 寂しければ誰でも良いってさ… 中学は特にヤバかったんじゃないかな… 一回やめようとしたけど、 多分無理だよね… 今はあの時と気持ちが同じ感じだからってのもあるしさぁ… 絶対レイカを傷つけちゃうと思うなぁ………… 俺とそーいう事出来るなら、ついて来れば?」 笑顔のまま手を差し伸べられて思わず縮こまってしまった…自信がなくなっていく… 「なっ…泣いてないよっ…泣いて…… …… ……っそんなんで泣いてないよバカ…っ …… もう……っ 慣れちゃダメだよ…傷ついたら傷ついたでいいのに…… 好きだから、でしょ?距離が近くなるのなんて、、、仕方ないんじゃない? や、ごめん、わかんないのに何言ってんのかな… 独占したくなっちゃうんだもん、 仕方ないじゃんって思っちゃうんだけどね、 アタシは… … だってほんと、誰かとこんな話したりさ、一緒にいたりしてないから…春輝くらいだよ。 怖いとか言われて、ああも無愛想だからさ、 あんま上手く仲良くなれなくて。 だから、積極的に話してくれて嬉しかったし、 ほんと嘘なくめちゃくちゃ楽しかったし! めちゃくちゃ楽しいこと増えたのは… 春輝のおかげで。 そう、下手な気をつかわなくていいって… いいよね。わかる。」 思わず言葉が詰まる、苦しい。 それを見兼ねてか「ごめん」と寂しい春輝の声がして、アタシは唇をかみしめた。 「また!また謝った!それだってば! 迷惑だなんて言った?思ってると思う? アタシは嬉しいって言ってるんだから… ちゃんと素直に受け取って?謝んないでよ… 春輝が、なにしてるか…しんないし。 ほんとは違うのかも知んなし。 それでも、アタシが知ってる春輝は今目の前にいて。 話してくれてる春輝で。 それを疑うなんて、出来ない。 だって、過去は過去だし、 アタシは別の誰かじゃなくてアタシだし。 でも、春輝が、アタシに誰かを重ねたり、 誰でも良いなら…話は別だよ。 アタシは、 春輝と出会って、学校生活楽しくなって、 初めて男の子と仲良くなった。 春輝にいっぱい教えてもらったから、 春輝を信じたいだけ。」 それを言い終えると、 春輝は立ち上がってアタシの手を無理矢理引っ張り水族館出口に向かっていく。 強く腕を掴まれているので抵抗してもきかないし、 怖い。 「俺がどんなやつか教えてやるよ…」 冷たい目。怖さが増す。 こういう時、抵抗が出来なくてちゃんと男なんだなって感じて… 「ちょっ、まって、はる、ちょっ…春輝…ッまってっ…」 懸命に掴まれた方とは反対の手で振り解こうとするけど無理だった。 怖かったけど、 無言で夜道を歩く… 水族館の近くにある少し高級そうなマンションの中へ手を引かれ…とある一室で立ち止まった。 鍵を開けるとアタシを放り投げるように中へ入り、後から春輝が入ってきて鍵を閉められた。 アタシ…どうなっちゃうんだろう。 緊張とドキドキするのを感じて 恐怖から目を瞑る。 春輝は床に倒れたアタシの身体を起こし上げると、 ……ぎゅっと抱きしめた。 「……やってない…嘘だよ、… もう今は薬物なんかやってねぇし… レイカに嫌われようとした… 幻滅されれば離れるって思ったのに、… …なんでだよ。」 抱きしめる手を緩めてアタシの頭をゆっくり撫でてきた… 優しくて、あったかいな… 「バカ…嫌わないよ、嫌いになれないよ… なんで、なんで嘘ついたの…バカ… 嘘ついたのは、守りたいからじゃないの、 シキコーのみんなを…」 「…もういろいろさ、終わっちゃったんだ… …今更意味ないんだよ 俺さ…シキコーのみんなが好きだから、 これ以上関わりたくないな… お願いだからさ、 そんなこと言うなって… 嘘つきだって嫌いだって言ってよ… 苦しいから……… ……もう…俺は大丈夫だから……」 そっとアタシから離れると立ち上がった。 「衝動的に連れてきちゃったけど、この家もそろそろ解約するし…知っていた所でだから、 会いにくるとか考えるなよ? …もういいよ、帰りなよ。」 目は合わさないで突き放すように言い捨てられた。 腕を取られ玄関前まで連れて行かれ扉を開けると、外に出るように促される。 「行って、…俺の気が変わらないうちに…今ならまだ、レイカに嫌われないままの俺でいられる気がするから…やばいな、支離滅裂…」 そうだよ、 嫌いになってほしいの? 嫌われたくないの? わけわかんない。 泣きそうな顔しないでよ。 「まっ、て…ちょっと…ねえ!アタシは…アタシは!!…」 思わず泣きながら怒っていて、 でも言わずにいられなくて、 アタシ今、どんな顔してるんだろう。 とにかく無我夢中だった。 「どんな春輝でも嫌いになんてならない!!!! いかない、ここにいる 春輝がでてこないなら、 出てくるまで、前で待ってる! 春輝が派手な髪やめても、 アタシは春輝を見つけられる どんな春輝でも、 アタシは嫌わないし見失わないっ」 閉められないように扉を必死に掴んで言い放つと、 そっと手をとられ中に招かれた。 「……レイカが謝っちゃってんじゃん…… そんな風に言わせたかった訳じゃないのにさ…」 悲しそうな顔でアタシをソファに座らせる。 怒っちゃったせいで心臓がいつもより早く動いている気がした… 嫌われ…た…かな? ソファには座らずに春輝はアタシの前に膝立ちをして座り込んだ。 「うん… 俺は…みんなが好きだよ… シキコーは好きだし、 学校行きたくない訳じゃなかったよ… でもね… 守りたいものがたくさんあったの… 俺さえ我慢すれば、 守れるものがいくつもあったよ。 誰かに頼るって選択もきっとあったかもしれないけど。 怖くてさ、 先輩はもうすぐ卒業じゃん? …家にも迷惑かけたくなかったし… 同級生のやつらもさぁ、 すげぇみんな優しいから、 俺なんかでも受け入れてくれるから… 逆にね、怖くなったよ。 未来があったり、 家族と仲良いやつとか… きょうだいと仲良いとか… 羨ましい気持ちもあったし… 勿論… レイカもお兄さんとかと仲良いんじゃないの? 羨ましく、おもってたよ…… ……… だからせめて、 誰かでいい… いや、誰かじゃ 駄目なんだよな… 好きな人に愛してもらえたらいいのになって… 思ってたけどさ… うまくいかないじゃん… もう、いいんだよ。 そーいうものなんだよ… 俺は、所詮その程度だから… いろんなことに向き合うのが怖くて逃げてる… 臆病なやつなんだって… だから、泣かないでよ。 泣かないで… レイカは悪くねぇから。 俺のことなんか忘れてさ、 見つけなくていいんだよ。 幸せでいてくれれば、 それでいいから。 笑ってて。 俺、レイカが笑ってくれると安心するし嬉しいからさ。 ……もうさ、終わっちゃったし…」 目を合わせてくれない。 そっと春輝の頬に触れてアタシに向ける。 大胆なことしてるかもしれないけど… 「わかったから、アタシの目、見て話してよ……ちゃんと学校来てよ」 声が震える。 「アタシと…話そうよ…」 思わず涙が止まらない。 春輝はアタシの涙をそっと指で拭う。 「ちょっといっかい落ち着こっか、…紅茶飲む? ……俺紅茶が好きだから、珈琲は無いんだけど…」 いつものような笑みを浮かべながら 頬に触れていたアタシの手をとって 優しく言ってきたので頷いた。 …… 暖かな紅茶を飲んでると、 何故か眠くて仕方なくて、 疲れちゃったかな? …こんな怒ったり、苦しくなったり、泣いたの… はじめて… ねぇ、 春輝… アタシ、いろんなことがはじめてだよ。 …こんなに、誰かのことを思ってさ、 嬉しくなったり苦しくなったりするのも… はじめて… ……… そっとベッドにレイカを寝かせた。 思ったより睡眠薬ってすぐ効くんだな… そんなことを考えていた。 眠るレイカに布団をかけて、頭を撫でる。 「ごめんな」とつい口にしていた。 怒られるのは解ってる。 でも謝らずにはいられなくて、 レイカの気持ちは凄く嬉しいし、 …他の奴らにもさ、いろいろ言われて… なんか自分の気持ちがよくわかんなくなってる。 …全て、やりたかったことも… わからなくなってる。 …おかしいんだ。 感じない。 苦しいって思っていたけど、 レイカに話したからか… 感じなくて。 どうでもよくなってきて。 ………… 世界が真っ暗だ。 … ソファに座って紅茶をじっと見つめていた… 横にあるペンと紙を見つめる。 出て行こうとしてたのにな… 早く行けよな… 誰かと一緒に居たい気持ちがまだあんのかな。 紙をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱に入れ、 家の鍵を閉めて外に出る。 “鍵開けたままでいいから” ただそれだけ、レイカにメッセージを送った。 …地獄よりは天国に行きたいな… そんな風に思いながら、 夜の街に出ると冷たい風が頬を撫でた。 俺は、最低だな… 嘘ばっかついてさ、 ……俺って、なんなんだろうな。 月の光に導かれるように、 …思い出の場所に向かって 誰も居ない道をバイクで走り抜けた。 END … 皆様、ここまで本当にお付き合いくだった方はありがとうございます。 これで、これで、シキケンコラボストーリーはラストになります、、、、、、!!!! …どうも、神条めばるです。 …本当は鷹左右組が出てこなければ、 もっとコラボをする予定だった方が数名おりました…、、、 やりたかった、書きたかったこと、 本当にいっぱいあったんですけど… 今思えば、こういう方向で終わってしまった…というのもまた一つ、ドラマなのかなって思っています。 レイカちゃんとのシナリオはリアルに会話してもらって出来たものです。 …1番苦しい話を与えてしまって。 ごめんねって気持ちが私にありすぎて、 春輝本当にレイカに何回も何回も謝ってました。 でもリアルな話、 春輝よくここまで耐えたね… というぐらいに… 言えるレベルまで… 開示してないストーリー(DMのやりとり)もあったりします。 だからこそ、この後すごい複雑な行動をとります。 とりますが、悪い話では有りません。 そのストーリーは……… 書いたんですが、封印する事にしました。 その後に起きる春輝の話からの… 彼がどんな風に学校で振る舞うようになるか… 最後の ストーリー読んじゃう人は、 もしかしたら苦しくなるかもしれないんで… それは後悔しない事にして、 わたしの中で消化します。 レイカちゃんがこんなにも、 春輝の為にいろいろ言葉をくれて、 中の人DMで泣きそうでした(  )  春輝…本当お前…って気持ちを持ちながら、 他にも泣かせている女の子多数いるから、 いい加減にしろ…という気持ちです。 だからチャラいって言われるんだよ??! …(春輝の設定が悪過ぎる もっと悪どいイメージだったのに…、、、 さてさて、レイカちゃんとの開示はここまでだけど…リアタイにまだ動きありそうなんで情報開示はしないだろうけど(   ちょっとどんな感じに会話するのか、 気になっています。 …恋愛感情なのか友情なのかは未知です。 近々学校に戻るので、 明るいシキケンライフを送れますように。 コラボしていただいた方、 ここまでシナリオを読んでくださった方、 本当にありがとうございました!!! 今後は壁打ちの機能も使わず、 Twitter内でのやり取りと、 自分の中にいろいろ消化できたら良いかなって思っています。 更に更に、 春輝の裏側で動いてた更なる話もあって、それも全部あげようか迷ったんですが…、、、 やめることにしました。笑 なんか、、、 違う面が全部見えてしまうかもしれないんで… 気が向いたら更新したいなぁと思ってます。 わたしの中にある理由って他にもいろいろあって……… とにかく!語る前に退散したいと思います!(逃げてるな!? 真実は闇の中へ!!!!笑 …長々とここまで読んでいただき、 ありがとうございました。 ではでは。
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