君を愛する三つの理由

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「……だから、安藤さんが言ってるのは本当なの。私が殺したようなものだから、責められても仕方ない。……でも、できれば、こんなこと誰にも知られないで……今度こそ普通の女の子みたいに生活したかったのに……」  自分に触れないで。彼女がいつもそう言っていた本当の理由。  それは彼女が、他でもない僕達を守ろうとしていたからゆえの言葉であったのだ。本当は友達と遊びたいのに、手も繋ぎたいのに、はしゃぎたいのに全部全部我慢して。 「……雪野(ゆきの)君も、もう私に近づかない方がいいよ。人間だって何回も接触したり、長時間接触したらどんどん吸い取られていっちゃうんだから」  彼女はそう言って、僕に背中を向けた。多分、今のうちに立ち去って欲しいという気持ちの現れだったのだろう。  だから、僕は。 「私、愛想もないし。冷たい性格だって、自分でもわかってるし。一緒にいても、楽しいことなんか……」 「じゃあ、触らなければ大丈夫なんだよね?」  逆に一歩、彼女に近づいた。手を伸ばしても触れられない、ギリギリの距離まで。 「やっぱり、木村さんは優しい子だった。自分の気持ちを我慢してでも、人を助けようって頑張ってたんだもん。そんな子が、冷たい性格なわけないだろ。……約束したじゃん、助けるって。僕、木村さんを助けるよ。怖いものがあるなら、一緒に戦うし、逃げるよ。頼りないかもしれないけど……僕が、木村さんを守れるように、頑張るから」  彼女は、もう一度振り向いた。今度は信じられない、といった顔で。  それはきっと自分の荒唐無稽な話を信じてくれたことにも驚いたのだろうし、それでも傍にいると宣言する僕に驚いたというのもあるだろう。  なんで、と。彼女の唇が動いた時。僕は勇気を振り絞って目をぎゅーっとつぶり、思い切って告げたのだ。 「僕は木村さんが大好きです!その理由は、三つあります!」 「え」 「一つ、他の子よりずーっと美人さんだったから!二つ、チューリップのお世話をする木村さんの顔がとっても優しくて好きになっちゃったから!三つ。……いじめられてる人の気持ちを理解して、自分の気持ちを我慢してでも誰かを守ろうとする君を……僕が守りたいと思ったからです!以上!」  ああ、頭から湯気が出そうとは、まさにこういうことか。我ながらよくもこう、恥ずかしい台詞がポンポンと出てくるものである。  ちらり、目を開けた先。ぼろぼろと涙を流しながら、こっちを睨むようにして見てくる空歌の姿が。 「馬鹿……ほんっと馬鹿!超馬鹿!超絶馬鹿ぁ……!」  彼女は子供のようにわんわん泣きながら、僕に言ったのである。 「わ、私だって、私だって雪野君のことが好きなんだもん……とっくに好きになってんだもん!だから傷つけたくないって言ってんのに……ほんと、馬鹿ぁ……!」  ピンクのチューリップの花言葉は、“愛の芽生え”。  彼女が大事にしていたその花が、可愛い花を咲かせる時、僕らもまた新しい世界へと踏み出すことができているだろうか。  今度は二人、心と心で手を繋いで。
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