君を愛する三つの理由

2/7
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 じゃあ一人で静かにしているのが本当に好きなのかというと、多分そういうことでもない。彼女は窓の向こうを、どこかさみしそうに見つめていることが多いからだ。その向こうには、校庭で遊ぶたくさんの子供達がいる。彼女は、本当はたくさんの友達と遊びたいのではないだろうか。いじめられているならともかく、空歌は特に誰かに酷いことを言われているというわけでもない。それなのに、どうしていつも当たり前のように一人でいるのだろう。なんとなく、他の子達も彼女の雰囲気に押されて、話しかけづらくなってしまっているというのに。 「じゃあ、ここからは話し合いの時間にします。ペアを作って、今回の物語についての感想を言い合いましょう。作文を書く時間はあとで取りますので、今は話し合いに集中してくださいー」  小学校の授業で特に厄介なものの一つが、こういう班活動やペア活動というものが少なからずあるというところではないだろうか。いじめられているとかではなくても、友達がいない子はこういうものになった時あっさりと孤立してしまう。三人組のグループも同じだ。二人でペアを作れと言われると必ず一人余ってしまう。だから、できれば先生にペアを決めて欲しいのに、先生は他の子達の要望を聞いて“仲の良い人同士”でグループを組ませたがるから困ったものである。  僕も友達が多い方ではないが、空歌はその上を行く。なんせ、彼女は休み時間に殆ど誰とも話さないからだ。自然とこういう時、孤立してしまうのも無理からぬことだろう。  逆に言えば、僕からすればチャンスではあるのだ。少々不謹慎であるのはわかっているけれど。 「え、えっと木村さん!!」  次々とクラスメート達がペアを作っていく中、案の定余ってしまう空歌。先生も、彼女を持て余していることを知っていた。僕は勇気を出して、空歌に声をかけた。 「ぼ、僕とペア組んでくれないかな。木村さん、頭いいから、良い意見をいっぱいくれそうだし!」  残念な言い訳しか思いつかなかったが、空歌は少し驚いた顔をしただけで追求してこなかった。ただ一つだけ、ぼそりと低い声で言われたのみである。 「……いいけど。私に触るのはやめてね。私、人に触られるの嫌いなの」  それはちょこちょこ、空歌が人に言っていることだった。そこそこ親しい子であっても手を繋ぎたくないし、どつきあいとかもってのほか。何か彼女なりにポリシーがあるらしい。それが、彼女が孤立してしまう理由の一つであったのだが。 「うん、いいよ。僕、木村さんに触らないから安心してね」  言われているのは僕だけではない。わかっていたので、傷つかなかった。きっと何か、事情があるのだろう。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!