いる、いる、いる。

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 ただ、この家が奇妙なんだよな。その弁当屋の弁当を頼む客は他にもいるんだけど、その家は必ず同じ弁当しか頼まない。鳥の唐揚げ弁当、それも五人前も。毎日五人も人間が同じ弁当を食うんだろうか?ってちょっと不思議に思うだろ。そこの弁当確かに美味しいけど、毎日同じって飽きると思うんだけどな。それとも唐揚げ弁当大好きな超大食いの人間が住んでて、一人で五人前も平らげるんだろうか?さすがに五人前、は現実的でない気がするんだけども。  しかも、家そのものも全然大きくないんだよな。一戸建てだけど、家族四人で住んだとてちょっと小さいんじゃないの?ってくらいの敷地しかない。自転車が玄関先に置いてあるんだけど、その自転車も一台しか見たことがないんだ。  何でそんなに小さな家かというと、人が住んでいる家より庭の方がずっと広いから。  しかもこの庭が奇妙なんだ。上の方まで、高ーい塀で囲ってる。まるで、中を絶対見られたくないみたいに。  ちなみにほぼ毎日って言い方だから“配達がない日もあるんじゃん”って思われるとは思うんだけど。それは、その家が注文を入れてないんじゃなくて、俺が注文を受ける担当にならなかっただけだと思う。同じ駅の周辺で張ってるA社の配達員は他にもいるしな。多分、俺が受けなかった時は他の配達員が行ってるだけじゃないのかな。 「A社の者ですー。お弁当配達にきましたー」  弁当屋で唐揚げ弁当を受け取って、いつものようにその家へ。  正直、俺がこの家が好きじゃない。奇妙な雰囲気が漂っているっていうのもあるんだけど、近づくとヘンな臭いがするから嫌だっていうのもあるんだ。なんか、庭の方から、水草が腐ったみたいな異臭がするんだよ。玄関まで近づくと特に臭う。家の影になっているのと塀のせいで庭の方は全然見えないけれど、多分庭から臭ってきているんじゃなかろうか。手入れされてなくて苔だらけの腐った池でもあるんだろう、とこの時の俺は予想していた。まあそんなかんじの臭いなわけだ。 「……いつもありがとうございます、いらっしゃい」
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