席がない彼女

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彼女の存在が気になりだしたのは、 放課後のHRが終わった時だった。 簡単な連絡事項が終わり 解散となった教室からそれぞれが自由に帰りだした頃。 突然教壇に向かった彼女は、 黒板を消していた先生に言い放った。 「北条先生、私の席が足りないから追加して下さいって  お願いしましたよね?  机と椅子を一つずつ教室に運べばいいだけでしょ?  なんでそれが出来ないんですか?」 怒るというよりは、淡々と感情を吐き出すといった感じで 彼女は先生をにらみつけた。 席が足りないってないって……、イジメにでもあってるの? 話の内容が気になり、そちらへ視線を向けると 当の先生は、まるで聞こえていないかのように彼女を無視し、 黒板消しを置くと手についたチョークの粉を軽く振り払い 「寄り道しないで、まっすぐ帰れよー」 残っていた生徒たちに声をかけると 彼女を1度も見ずにスタスタと教室を出て行った。 「北条先生!」 彼女は慌てたように叫んだが、先生は立ち止まることもせず 廊下へと出て行ってしまった。 他の生徒たちも、まるで何もなかったかのようにふるまっている。 教職員が生徒を無視するってどうなの? 他人にあまり興味のない私でさえ、 この情景を疑問に感じた。 もしかして、これがクラス崩壊っていうやつなのか? 残された彼女は、後を追うのを諦めたのか、 「教師の癖に、生徒を無視していいのかよ……」 がっくりと(うつむ)くと、あからさまにため息をこぼした。 はぁーっと力なく彼女の視線が上がった瞬間、 一部始終を無遠慮に見ていた私の視線とぶつかって。 あっ。ヤバッ。 そう思った時には、もう手遅れで。 「今の、見てた?」 彼女は、一瞬驚いた顔をしたあと 気まずそうにそうに笑った。
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