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それからだ。
彼女は、私を見つけると嬉しそうについてきては
ニコニコと話し始めるようになったのは。
最初はあいさつ程度だったのも、
1週間を過ぎたころには、放課後も一緒に過ごすようになってた。
人見知りの激しい私が誰かとここまで親しくなるには異例の速さで。
なのに戸惑いよりも、嬉しさのほうが上回っていた。
「あ、しゅーちゃん、今日はどこに寄り道する?」
私のことをそう呼ぶようになるくらい、親しくなった彼女は
真夜中のDJよりもおしゃべりだ。
授業開始のベルが鳴って、先生が入ってきたところで
やっと彼女のおしゃべりは中断する。
だからといって彼女は
自分の席へとは戻っていかない。
理由は「自分の席がない」から。
あんなに懇願していた彼女の席は、今だに用意されていない。
どこまでも理不尽な扱いだと思う。
席がない彼女は、
授業中、窓辺に寄りかかりながら授業を聞いたり
飽きてくると窓から景色を眺めたり、
疲れてくると、床に直に座り込んだりしていた。
自由すぎる彼女に、最初こそは驚いたが
先生もクラスメイトも、だれも注意しない。
それどころか、いない存在として扱う。
学校中からハブられてるのだろうか。
「みんな私のことを、触らぬ神にたたりなしって感じで
無視を決め込んでるんだよ」
そんな環境のなかでも彼女は自由で生き生きとしていて。
そんな彼らを恨むわけでもなく、不登校にもならず
自分流に学校生活を楽しんでいた。
ものすごく強いと思う。
私にはまねできない。
だけど私は、薄々"あのこと"に気づき始めていたんだ。
クラスメイトの反応とか、
先生の視線が一度も向いていなかったとか。
気づいていたけど、見ないふりをしてた。
だって、それを口にしたらきっと……。
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