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「楽しかったねー。また行けたらいいねー」
「うん」
私たちは学校をさぼって映画を見に行った。
そのくらいしか思いつかなかったから。
楽しんでくれて良かった。と嬉しそうに笑う彼女。
多分彼女も気づいてる。
私たちがもう、一緒にいられないってこと。
お互い口にはださないけど、
「その時」は着々と近づいていた。
私たちは誰もいない公園で
最後の会話を楽しんだ。
もともと口数の少ない私は、
ほぼ一方的に聞き役となるのが常だけど。
それでもこんな風に、彼女と一緒に過ごせたことを
私は一生忘れない。
「しゅーちゃん」
彼女がポツリと私の名を呼んだのは、
もう夕暮れも終わろうとしていたころだった。
「何?」
「ありがとね。楽しかったよ」
それは、今日のことだけじゃないって意味の
ありがと。なんだよね。
そっか。
時間切れかぁ。
その時がとうとう来たんだと思った。
「ん。これでやっと静かになるわ」
精一杯の笑顔で強がってみたのに
「嘘ばっか。寂しい癖に」
簡単に見破られてしまった。
「うぬぼれんな」
涙をこらえて、精一杯の悪態を吐く。
弱音を吐いたら、もっと一緒にいたいって
言っちゃいそうだったから。
「ツンデレなしゅーちゃんも、大好きだよ」
「キモ」
悪戯な顔をしてからかう彼女の姿が次第に薄くなり
浄化が始まったことを知る。
「キモって、ひどいなぁ……」
笑った彼女の頬を、一粒の涙が伝う。
とうとう限界か。と私は彼女の涙に別れの覚悟を決めた。
彼女は最初から、わかってたんだと思う。
最後の時間を一緒に過ごしてくれたのは
私が一人ぼっちで寂しそうに見えたんだろうな。
それは彼女なりの優しさで。
彼女と一緒に過ごすうちに思い出したことがあった。
数年前、授業中に突然倒れ救急車で運ばれたけど、
助からなかったという女子生徒がいたことを。
彼女の姿がどんどん霞れていき、
「しゅーちゃん、バイバイ……」
大好きだよ。
最後の言葉は、暗がりの中でむなしく散った。
「私も大好きだよ」
やっと素直に言えた言葉は、
彼女に届いたのだろうか。
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