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若侍は彼らに、「矢を放つな」と命じました。
すず姫の首から太刀先を外し、三角の裸の胸へ向けます。
「つづきを申せ」
「さて2匹の鬼をどうしたものかと考えあぐねていれば、若狭でお主にめぐり会った。良い機会だと一計を案じ、姫に化けて湯殿に出向いたのよ」
「どうして鬼のお前が姫の願いを知った? なぜそれを叶えようとしたのだ」
「私を哀れと思うてくれたのです」
若侍の問いに、ほんもののすず姫が声を震わせて答えました。
「御社の祭神に、兄たちの所業を訴え、罰を与えてくだされと願ったところ、三角どのが現れたのです」
「姫は、『願いを聞いてもらう代わりです。どうぞ私を食べなさい』と言った。わしも長く生きているが、そんな言葉を人の口から聞いたことがない。当然、わけを尋ねた」
鬼の三角は、天を仰ぎました。
「聴けば兄たちの非道のふるまい。わしが代わりに恨みを晴らしてやろうとしたが、別の鬼に先を越された。しかもやつらは姫を連れて京へ戻り、邸の者どもを食らおうという。そこでわしは深謀遠慮をめぐらせたのよ」
若侍は、疑いを口にしました。
「鬼のお前が仏心を持つはずがない。いずれ姫を食うつもりであろう」
「明けすけに申せば、初めはそうだった。だが情が湧いてしまったのだ。今のわしは一生、人を食わずともよいとさえ思っている」
若侍は、騙されまいぞ、と太刀を持つ手を高々と掲げました。
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