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彼とて、すず姫の望みに反するのなら、鬼を手討ちにしたくありません。
「待て、待て、お主は考え違いをしているぞ」
鬼の三角は若侍の言葉を遮りました。
「わしが好いておるのは、すず姫ではない」
「ではやはり、姫を食うと申すか」
「懐に入った窮鳥だから、食わん」
「ならば人はどうじゃ、食うのか」
若侍が問い詰めると、鬼は首から上を赤らめました。
「お主が『食うな』と言うなら、一人として食わん」
若侍は頭を強く殴られたかのように、目の前が真っ暗になりました。
「昨夜見たお主の分厚い胸板。抱かれてみたいと思うてしまったのじゃ」
「惚れられてしまえば……、手討ちにはできぬ。三角よ、そういうことか」
中納言家の人々が息を詰めて、成り行きを見守っています。
若侍はどうにも、身動き取れなくなってしまいました。
(了)
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