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夕食後、若侍は湯殿で汗を流し、旅の疲れを癒します。
芋名月まで2日、草むらではしきりと虫が鳴いておりました。
「陰陽師の申したとおりだが、姫の警固だけが俺のする事とは思えぬ」
彼は月に語りかけました。
「はい。あなた様にはぜひ、していただきたい事がございます」
背後から聞こえたすず姫の声に、若侍はあわててふり向きました。
ところが姫の姿はありません。
ただ1匹の虫が湯殿の床で、「りいん」と鳴いておりました。
「鈴虫の音を人の声と間違えるなど、姫のたわわな胸に心惑わされてしまったか」
「幻ではありません。私がまことのすずなのです」
すきま風で湯けむりが揺れると、そこには浴衣を着た姫の姿がありました。
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