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その87.出雲神命
本来であれば倭国の神が住む地域に行くには、ここから僅かに南に
反れながら東へ進むのが妥当だが、地脈を読みながら進まなければ
ならないので、一度大きく北へ回り込み、李の国を通って更に海を渡り、倭国のヤクモ州という所に向かう。
周囲にエンジン音が響いてくる。倭国の軍隊の偵察機だろう。この
辺りは隣国との緊張感が高まっている地域だけあって偵察機も一機
だけでなく、見えるだけでも数機飛んでいる。一機の偵察機がこちらに
合図している。付いて来い、という意味なのだろう。それを察してか、
サント・マルスもまた同行しながら倭国海を越えてゆく。
やがて、灯台が見えてきた。それを過ぎ、二つの山の間を通ると、
偵察機は今度は高度を下げるように合図したので、それに従った。
赤い二本の柱で出来た建造物の真上に誰か座っている。直感でそれが
誰だか分かった。そのすぐ側にサント・マルスは降り立った。
「良く来たな。異国の神々よ。」
倭国の神、出雲神命(いずものかみのみこと)だ。出雲神命は建造物から飛び降りた。
そしてそこに二人の人物が立っている。一人はヒデカズ・サトウ氏。もう一人は確か倭国の内閣総理大臣のテツロウ・スズキ氏だ。
「御無沙汰しています。」
私はサトウ氏にそう挨拶し、スズキ総理大臣に自己紹介をした。
「まずは、急ぎましょう。」
その一言で私達は今度は南へ向かう事になった。
出雲神命は腰にぶら下げていたひょうたんの口を銜えた。アルコールの臭いが飛び、中身が酒である事が分かったので、なにやら不安が漂う。
そして自分の両手に吹きかけた。「いくぞ。」
そう叫んで手をゆっくりと二回叩いた。これが倭国の神事である「二拍」というものらしい。そして首にぶら下げていた鈴を取り出し大きく
鳴らした。そしてそしてそのまま祈りを捧げると何処からともなく大きな黒い鳥が現われた。
「か、烏!?。」「八咫烏(やたがらす)。神の使いですよ。」
烏が神の使いなのか?。非常に興味をそそるが、今はそれどころでは
ない。
八咫烏は旋回し、こちらに降りてきた。一見普通より大きめの烏に
見えたが、よく見ると足が三本ある。
「天空神の話によると、そちらの守護神は地脈を読む事ができる
らしいな。それで異国である華の国や李の国の上空も飛べたのだな。
ただ、残然ながらここから目的地である大東海までの間には地脈を
読める場所がない。あったとしても倭国の最高峰である藤之岳まで
回り込まねばならん。」
「そこまで、遠いのですか?。」
「遠い、と言うよりも、ここから南に見える島を越えればすぐに大東海。しかも大東海のすぐ側には東海海溝があって地脈も途切れている。時間も押し迫っているというのに、遠回りをしている余裕もなどない。ならば
始めからこれで一旦その島の大東海側に降り、そこから船で目的地へ
向かうより他に無かろう。と言うのが我等の考えだ。」
地脈がないとなれば、進む術は自分達にはない。従うのが妥当だろう、そう考え、私は「お願いします。」そう返事をした。
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