サント・マルスと大陸の覇王 巻の9

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その91.悪しき神の降臨  クリフ氏から借りたままのGPS搭載ナビゲーション付き端末機が 大東海の中心を示したポイントへ辿り着いた。水平線に沈む夕日を 眺めながらその時を待つ。イブリスは大接近し、ラジオでもこの惑星の 大気圏内に突入するのも時間の問題だと伝えている。  サント・マルスは惑星エーアデに導かれるように船の天井に立った。 手を広げ、運命に身を委ねている、そんな風に見えた。やがてサント・ マルスは宙に浮き、火焔星のようなその瞳を閉じた。上がってきた モーントは不気味なほど真っ赤に染まっている。 「いよいよか・・・。」 サトウ氏が呟く。  宙に浮いたままのアント・マルスの体から黒い霧のようなものが 現われた。やがて辺りは黒い霧で覆われ、僅かに見えるのはロート モーントと、接近しつつあるイブリスだ。 「来たぞ。」 私は息を呑んだ。カズマ青年は慌てて舵を切り、船を移動させる。 「避けきれるか・・・。」 ふと私の手の中に何かあるのに気付く。空っぽの宝玉だ。  見上げれば、混沌の黒い霧が上昇し、少しずつイブリスに迫っていく。そして徐々に巨大惑星を包み込んでいる。その様子を私は息を呑んで 見つめている。不意に以前見た夢を思い出した。イブリスの降臨が始まりこの惑星エーアデに衝突するあの夢を・・・。 「いや、あの時の夢のようにはさせない。」 そう呟き、気持ちを奮い立たせた。  船は元来た海路を進み、港へ戻っていく。 「何者だ・・・、我の邪魔をする者は・・・?。」 未だ嘗て聞いた事のない不思議な声が頭に響いた。この声・・・まさか。 「・・・何者、我を呑み込もうとしているのは・・・。この惑星の生命体なのか?。」 「逆に聞こう。そなたは一体何者だ?。」 私の口から、大陸神ユーラントとも思える言葉が発せられ、驚いた。 もしかして、・・・イブリスに意思があるのか?。私の疑問に、頭の中にあるもう一つの意思が答えた。「そうかも知れぬ。しかし・・・。」 「何者でもない。我はただ強い生命エネルギーを求める者。永遠にな。」 「強い生命エネルギーだと!?。」 するとイブリスは黒い霧を振り払った。 「知っているか。死を目前にした惑星は想像を遥かに超えるエネルギーを放っている。我はそのエネルギーを求めこの星を目指した。」 「死を目前にした!?。こ、この惑星エーアデが・・・。馬鹿な。」 「信じるか信じないかはどうでもいい。ただ、死を目前にしながらも これだけ生命力に溢れる星は他には無い。我はこの星が、死期を迎える 前に全ての生命エネルギーを吸収し、自らの糧とするだけだ。」 「この惑星の生命エネルギーを吸収するだと!!。もしそんな事に なったら、この惑星に住まう全ての生命はどうなると言うのだ。」 「そんな事は我の知った事ではない。あえて言えば全てを無に還すのみ。後の事は知らん。」 その言葉に、私は唇を噛み締める。この惑星の死が目前だと!?。 信じられない。いや受け入れたくはない。娘の、そしてこの惑星の 全ての生命の未来はどうなる?。 「認めるわけにはいかん・・・。」 私の心臓の鼓動が早くなった。そしてそれは惑星エーアデの鼓動と 共鳴している気がした。エーアデの宝玉を取り出し、掲げた。すると黒い霧はますます濃くなり、再びイブリスを包み込んだ。 「悪あがきはよせ。」イブリスは霧を覆い払い、そしてエーアデはそれに負けじと闇の封印を広げていく。 「な・・・何っ。」 不気味な雄叫びが惑星エーアデに響いた。混沌の邪神ヴァルタヴルカン。あの時見たそのままの姿だ。広げた封印の闇のせいか、イブリスは 少しずつ混沌の闇の中へ吸い込まれる。と同時にヴァルタヴルカンは その禍々しい姿を現していく。 「そんな事で・・・。」 イブリスは逆にヴァルタヴルカンを抑え付けようとする。しかし、 ヴァルタヴルカンもその力の範囲内から抜け出ようとする。大東海は闇の霧で暗黒に覆いつくされ、何も見えない。恐らく星の光さえも届かない だろう混沌の闇が広がっていく気がし、震えた。 「どちらが有戦なのでしょうか?。」 サトウ氏が尋ねる。「わかりません。」  ふと気がついた。私の鼓動と一緒に共鳴していたはずのエーアデの 鼓動が少しずつ遅くなっていくのを。「まさか・・・。」大きな力の ぶつかり合いに、この世界が持つのか?。 「こんな巨大な力が・・・今まで一体何処にあったんだ?。」 サトウ氏の質問に、私の声を通して不思議な力が答えた。 「大陸一つ一つに大陸神の封印が施されていて、そのエネルギーはその 大陸の守護神で守られている。混沌の闇はその封印の内側には入って くる事ができない。守護神を始めとする生命力が光りを受けていた為だ。そして今、惑星エーアデによってその封印は緩められている状態だ。」 「惑星エーアデの力は持ち堪える事が出来るのか?」 「それはエーアデにすら分からないそうだ。」「なんと。」 確かに、闇の力は惑星エーアデすらも呑み込んでしまうかもしれないといっていた。この二大勢力にエーアデが持ちこたえられな かったら・・・。そう感じた私は自分が出来る事をと思案を巡らした。 勾玉の事を思い出し、左手に握り締めて祈った。 「その力、解き放ってはなりません。」 惑星エーアデの声が頭の中に響いた。「何ですって!!。」 「あなたが持つ大陸神の力は解放すれば闇と同等の力を発揮できるはず。今は温存させて闇との戦いまで抑えていてください。」 「しかし・・・。」「あなたは、最後の切り札なのです。」 切り札・・・そういわれて私は返す言葉が出ない。 「だまって成り行きを見守るしかないのか・・・。」 手を出せない自分が歯がゆかった。
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