サント・マルスと大陸の覇王 巻の9

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その92.暴走  争いを一進一退と繰り返すイブリスとヴァルタヴルカン。やがてその 戦いにも変化が見られてきた。イブリスの内側から少しずつ破壊が 起きている。 「何でしょう・・・。」 「もしかして・・・呑みこんだ星々のエネルギーが大きすぎて、それを 押さえる事が出来なくなってきているのかもしれない。」 「勝算はある、という事なのでしょうか?。」「それは何とも・・・。」 そう答えると、サトウ氏は難しい顔をした。「そうですね。」 「・・・そなた達に尋ねたい。何ゆえこの滅びゆく星を守ろうと するのだ?。何ゆえ、この星に拘るのだ?。」 イブリスが疑問を投げ掛けてきた。私は暫く考えた。そして答えた。 「見て分からぬか。この星に住まう者全てがこうして答えを出している。皆、生き永らえる為星を守る。それだけだ。」 「生き永らえる。ただそれだけの為に全てを賭けるのか。」 「その通りだ。」  イブリスはやがて小さくなっていき、遂にその姿を全てヴァルタ ヴルカンに吸い込まれた。「やったか!!。」 「喜ぶのはまだ早いです。本当の戦いはこれからです。」 私は雄叫びを上げるヴァルタヴルカンの姿を見つめ、答えた。  予想通り、ヴァルタヴルカンはその闇の力を広げ、惑星エーアデさえも呑み込もうとしている。世界中に存在する神々はその瞬間から祈りを 込め、暴走を食い止めようとする。 「全ての生命達よ、その生命エネルギーを解き放ってエーアデに力を 与えよ。」 デルシャにいるはずのセルデゥスの声が頭に響いた。 「全ての生命の力、そしてこの守護神の力、全て惑星エーアデに捧ぐ。」 今度はメセトハプラの太陽神ラーの声が響いた。 「この世界を救う為、全ての生命よ。私に力をお与え下さい。」 メリアナの女神ヒヒポテの声も響いた。それに続くように全ての国の 神の声が頭の中に響いた。 「生きる力は皆みなぎっている。その生命力で、この惑星を救い たまえ。」 この声は・・・確かアルデキアを始めとする中央大陸の守護神 アッサーラ。やがて神々の声が途絶えると、今度は人間と思える祈りの 声が響く。その声を聞きながら、私は娘の事を思い出した。  「娘の・・・そして全ての生命の未来を守りたい・・・。」 思わず口に出して呟いた。そして右手にサント・マルスの宝玉を掴み、 左手に勾玉を持って祈った。  長い事私の心の中に一つの蟠りがあった。それは二十五年前、祖国を 経済破綻から救う為、王国の歴史を閉じた事。確かに永きに亘って 受け継いできた王家を、私の代でその歴史を閉じる事は先祖に対し申し訳ない気持ちがあった。それともう一つ、自分が成しえなかった経済の 回復を、結局は誰かに任せてしまった。言い換えれば、「逃げ」に 回ったのではないか、という罪の意識に苛まれていた。だが、もう二度と「逃げ」る事はしない。最後の最後まで、王家の最後の血筋として、 旧王国の覇者として、この惑星を守り貫きたい。繰り返し頭の中で 祈った。  しかし、神々の祈りも虚しく、ヴァルタヴルカンの暴走は止まらない。同時に闇の力はどんどん広がり、惑星エーアデを覆い尽くす勢いだ。 エーアデの立てた作戦とは言え、今度はこの惑星が闇の飲み込まれて しまう。「どうしたら・・・。」 「この惑星の運命、そなた達に託したぞ。」 アトラテックの大陸神ティマイオスの言葉が蘇ってきた。  私は祈りながらその言葉を繰り返した。「運命か。」  確か惑星エーアデは私がエーアデの存在に気付き、世界を救おうとする事を「運命」だと言った。ならばその「運命」従い、世界を救うだけだ。静かに目を開け、心の声を捉えた。誰もが「輝かしい未来」を信じて いるはず。  空を見上げる。黒い闇が辺りを覆い、世界は混沌の闇に堕ちていく。 そして人々の重く、息苦しい声が響く。  「・・・光を・・・。」 混沌の闇の向こうから僅かに赤く見えるモーントの姿が私を奮い 立たせた。
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