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その84.手を差し伸べる者
朝一番に電話が鳴った。寝ぼけ眼で電話に出ると博物館の館長から
だった。
「教授!!。早く!!。テレビを観ろ。ええと、国際テレビのニュースチャンネルだ。」
私は回らない頭を掻きながらテレビのリモコンを取った。
「・・・この番組を何人が見て居られるかは分からぬが、どうしてもこの事をあのサント・マルスの主君殿にお伝えしたい。」
一人の男性が、テレビカメラに向かって叫んでいる場面が映し出されている。その姿はどこかの民族衣装で異国の人間とすぐには分かったが。
途中から観たので、彼が何を言おうとしているのかさっぱり
分からない。自分に何か伝えたい事があると言うのは分かったが、
一体何を伝えたいのか。インタビューが終ると、ニュースキャスターの
場面に移り変わった。
「・・・という事で、今世界中が注目しているイブリスの降臨ですが、
それを阻止できる人物である、リュッフェンの守護神サント・マルスと
旧王国の王に是非、彼の言葉が伝わる事を祈ります。・・・さて、
続いての話題ですが・・・。世界遺産にもなっている天巖山脈の
最高峰・・・。」
これ以上の事は言わないなと判断した私はリモコンのボタンを押し
まくり、似たようなニュースを放送していないか観た。けど、その話題を取り上げている局はない。イブリスの降臨で世界中が不安に陥り、あち
こちで暴動や略奪が相次いだと言うニュースばかりで心が痛む。
ふと思い出した。アトラテックにタイムスリップした時の事を。もし
あの時真実を伝えていたら、あの大陸はこんな風に荒れた世界になって
いたのだろうか。自分達のした事は、間違いではなかったのだろうか。
そんな風に考えた。
妻を起こさないようにそっとりんごとひまわり種のパン半切れ、冷蔵庫からソーセージとトマトを出し、皿に集めた。ソーセージをオーブンに
いれ、温まるまで歩きながらトマトにかぶりついた。
「・・・もう起きてたの?。」
「ああ、すまん、起こしてしまったな。実は博物館の・・・。」
私は妻に軽く説明をした。妻はローデンマルクト(市場)へ朝食の
買い物に行く為に早く起きてきたという。
「コーヒーでも淹れる?。」
「いや、食べ終ってから淹れるよ。大丈夫。」
「ありがとう。じゃ、行ってくるね。」「ああ、気をつけて。」
私は温まったソーセージを皿に取り、それを持って書斎へ向かった。
パソコンの電源を入れ、動画サイトでさっきのニュースを探す。放送
してすぐにアップする事なんてできるのか?。半ば諦め気分で国際
テレビの名を検索の枠内に入力した。「まさか、これか・・・?。」
そこには天巖山脈の最高峰デヴギリの守護神サガルマータが映って
いる。先程のニュースはこの画像なのか?。
「守護神がテレビに出るのか・・・。」
隣に映っているのはデヴギリ山のお膝元であるテムジン自治区の指導者ラサ・ポタラだ。ラサ・ポタラはテレビに向かって話す。
「これはただの夢ではない。私の枕元で私に言葉を継げたその声は、先日テレビで見た惑星エーアデの声そのものだった。惑星エーアデは『自国のある大陸から外へ出る事が出来ない守護神を導いて欲しい。』と私に
告げた。これは神を超える存在の訓示だ。
その守護神はリュッフェンの守護神サント・マルスと確信した私は、彼等に一刻も早く伝えねばならないと感じたが、伝える術が無かった為、このような形でお伝えする事をお許し頂きたい。それからこの番組を何人が
見て居られるかは分からぬが、どうしても・・・。」
「先日惑星エーアデが言っていた『力を貸してくれるもの』とは・・・
この事なのか?。」
私は思わず画像に釘付けになって叫んだ。「天巖山脈か・・・。」
天巖山脈はユーラントとエイジャンを分かつ巨大な山脈で、ここを境に西のユーラント大陸、東のエイジャン大陸となっている。五百年前まで
この山脈を越えるルートが古代の「塩のルート」しか無かった為、文明が交じり合う事がなかった。それ故にお互い独自の文化を発展させて
きたのだった。
早速別のページを開き、天巖山脈へのルートを探る。かつての「塩のルート」も道のりが非常に険しかった。その為ソルレイズとウドヒ砂漠を通って南に大きく回るルートが南ルートと呼ばれ、造船技術の発展と共に南ルートは整備が進んだが、リスクの大きい「塩のルート」は廃れて
いき、天巖山脈への巡礼者だけが訪れる道と化した。
天巖山脈へ行くにはここから一度イスパニアへ行き、国境を越えアルメニスタンに入りウドヒ砂漠を越えて行くとにテムジン自治区がある。
「まずはイスパニアの・・・ええと、ヴァレンシア州か。ここまでは
サント・マルスでも行けるか。」
惑星エーアデの立てた「作戦」に則り、私はサント・マルスを伴い、ユーラントとエイジャンの二大陸、そしてその間にある天巖山脈を
越えなければならない運命にあるようだ。まずはエイジャン大陸の
東のはずれの島国である倭国へ向かう。
倭国の東側に面している海こそ、『モーントフィンスターニス』で
モーントが赤く見える場所である大東海だ。
倭国か。私は机の引き出しの奥にしまってあった名前のカードを思い
出した。倭国のテレビ制作会社ヤマティイの番組制作プロデューサー、
ヒデカズ・サトウ氏だ。早速、カードに書かれてあるメールアドレスに
協力を依頼する文章を送った。
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