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◇◇◇
「…で、何で汐里のパイから指輪出てこねーんだよ」
俺の首根っこを掴んで、晃太がヒソヒソと言った。
「何で絞り口が出てくるのよ~。指輪どこいっちゃったわけ? 誰か間違って食べちゃった? それとも食いしん坊の汐里がやっぱ呑み込んでた??」
理紗もプロポーズが失敗になったと思って焦っている。
「…おい、陸。お前顔がにやけてるぞ」
敦史の指摘に、俺は「ごめん」と返す。だってあの時の汐里…期待したのと違った…って表情で。それはそれはガッカリした顔を浮かべていた。
俺は汐里の気持ちを確信し、亮史さんと瞳さんに振り返る。
「すみません、勝手しちゃって」
「それは構わないけど…この後どうするんだ?」
少し困った顔の亮史さんがそう言うと、瞳さんは冷蔵庫からバットに陳列したババロアを取り出した。違和感がないよう、汐里用のオレンジが飾ってある奴以外のグラスにも…苺やキウイなど色とりどりにグラスを飾っている。
流石、瞳さん。そう思っていると瞳さんが、
「この後は、勿論ババロアよね?」
と俺ににっこりと笑いかけた。本当、流石瞳さん。頼もしい。
訳が分からないって顔の皆を席に戻し、ババロアをそれぞれに配って口直しを始める。
汐里、こんな俺でごめん。憶病で、試すような事をして、皆を巻き込んだけれど。情けないからこの事は君には秘密にするよ。
いつか息子か娘が生まれたら…その時は情けない父親のプロポーズ作戦を聞かせてあげようかな。俺は自分の気の早さに、ちょっと笑った。
「笑ってどうしたの、陸?」
「そうだなぁ…多分、君があと一口、指を動かした頃に分かるんじゃないかな?」
「何それ」
つられて笑っている汐里は、スプーンを口に含んで。
今度こそ驚いた顔をした後…ぱぁっと笑顔を浮かべて俺に抱きついた。
瞳さん以外皆よく分からない顔のまま、上手くいった事を祝福してくれている。
…隠し事ばかりで、ごめんね?
俺は皆に内心で頭を下げた後、ババロアの味の残る汐里の唇にキスをした。
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