君があと一口、指を動かす頃に side:汐里

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その様子を見ていた敦史と理紗が妙ににやにやしているように見える。 あんた達も私が食い意地張ってると思ってるのか…、よく分かってる友人達じゃない。 陸から私が受け取った後は、レディファーストって感じで理紗が選んで、その後に晃太と敦史、陸。パイを作った亮史さんと瞳さんが残ったピースを取り皿に乗せた。切り口を見ると中はチョコレートになっているらしく、理紗と顔を見合わせて「早く食べたい~」なんて子どもっぽく話していた。陸が優しい顔をしてこっちを見ている。 「汐里、よだれ垂らさないでね」 「失礼ね、口の中にいっぱい溜めてるわよ」 可笑しそうに笑う陸が私の頭をポンポンと叩いた。その様子をいつの間にか皆ジッと見ていたので居心地が悪く…「は、早く食べよう?」と催促する。クスクス笑った亮史さんが「じゃあ、皆一斉に食べ始めよう。焼き物を呑み込まないように、咀嚼して食べてね」と付け加えた。その視線は私を見ているみたいで恥ずかしかった。 「…ん…あれ。これ、もしかして」 口をモゴモゴさせていた晃太が皿に向かってペッと吐き出すと、そこには蝶々の形をしたフェーヴ(焼き物)がコロンと転がっていた。 「あぁ、何で晃太なのよー! 私が王様になりたかったのに!!」 本気で悔しそうにしている理紗が叫ぶと、晃太がふんっとドヤ顔をした後に「王様は俺だなぁ。欲しかったらコレ譲ってやってもいいけど?」とにやにや皿のフェーヴ(焼き物)を理紗の顔に近付ける。 「やめっ晃太の唾液塗れの物なんていらんっ!」 「あー、王様傷付くわー。理紗に肩もみでもしてもらおうかなぁ」 「おいおい晃太、王様ゲームじゃないんだぞ」 呆れたように言っている敦史や茶番をやっている理紗と晃太を尻目に、王様が決まってしまったかと…私はゆっくりガレット・デ・ロワを味わう事にした。亮史さんが晃太の頭に飾りの王冠を乗せ、「おめでとう」と言っている。 眺めながらこれ本当に美味しいなぁと幸せを噛み締めていた。 「…汐里、美味しい?」 少しそわそわとしている陸が私の隣へと移動して来た。 …トイレに行きたいのかしら? そんな事を考えていると、口の中に何か固い物が当たった。 「んう…?」 もうフェーヴ(焼き物)は出てきたのに、何で? 何が入ってるの? もしかして…本当にもしかしてのサプライズだった? 陸以外の皆が一斉に私に注目しているのが見えて、思わずビクッとした。危うく驚いて呑み込む所だった…寸での所で口から出した私に、皆一斉に飛びついて来る。 「おめでとう、汐里!」 「良かったなー。俺達に続いて二組目の、」 「え…何がおめでとうなの?」 亮史さんが言いかけた言葉を遮って、私は皿の上の物を見せた。 …そこに転がっているのは、多分皆が思っているモノじゃあない。 ついでに私が期待したモノでもなかった。 コロン、と音を鳴らして転がったのは。 生クリームとかを絞る口金の部分だった。 -私が何故、と首を傾げるよりも… 皆が陸を拉致って店の奥へと引っ込むスピードの方がずっと速かった-
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