嘘に嘘を塗り重ねて【前編】

妻の秘密

独身じゃなくて既婚。
彼氏ナシじゃなくて夫アリ。

実家暮らしどころか高級マンション住まい。
ワインレッドのMINIは夫所有。

夫が運転することは少ないけど、もし運転することがあっても恥ずかしくない車、かつ、私が運転していても違和感のない車…かなり考えてMINIを選んだ。

私は、箱入り娘でもお嬢さまでもない、上京組の庶民です。

このことは、職場の偉い人でも、ごく一部の人にしか伝えてないし、口止めするよう強く言いつけている、夫が。

私自身は、服装も車も、この立派な住まいに似つかわしいようすり合わせているだけの、庶民ですよ。

自室を一歩出るだけでかなり緊張する。
だって、ここにはお上品な奥様や本物のお金持ちの方々しかいないのだから。
だからこそ、ロビーで浮かないように、身なりは整えてからでないと駐車場から出られない。

朝番の時は、事情を知っているコンシェルジュにしか見られないので部屋着のまま車に飛び乗っている。

だからこそ、着替えとメイク道具を忘れることは断じて許されないのである…！
それに、私の存在は他の住人にもあまり知られない方がいいと考えているので、目立たないよう、静かに行動することを心掛けている。

なんでかって？

それは、結婚を世間に公表してない、人気アイドルの妻だから。