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光の海
どうやら私が持っているチケットは、関係者席のものらしい。
運転手の彼から指定されたゲートへ行き、係員に名前を伝えると、こっそり裏口へ案内され、空き部屋へ通された。
そこで私はスタッフTシャツとネームプレートを渡された。
関係者席は偉いおじさんが視察に来ているような場所らしく、私のような一般人の若い女が混ざっていたら、メンバーの彼女だと勘ぐられてしまうのだそう。
開演間近の暗がりの中、関係者席へ入り込み、
「今日はわざわざありがとうございます」
と、スタッフのフリをして挨拶を交わす。
そして、ネームプレートを渡された時にキツく言われた言葉…
『何があっても顔に出さず、冷静に堂々としていること』
を心の中で何度も反芻する。
…ここはそんなに危険な場所なの?
なんで私はのこのこ来てしまったんだろう、と少し後悔し始めた頃、
わあぁっ!!!!!
会場が突然真っ暗になり、歓声がこだました。
次の瞬間。
きらびやかな衣装を身にまとい、演奏、歌唱と共に5人の男性が現れた。
会場の歓声は止むことがない。
そして、会場中に色とりどりの光が揺れている。
なんなのコレ…すごく、きれい…。
しばらく会場を見渡し、再び彼らに視線を戻す。
すると、センターには先日の若い男・御村が立ち、笑顔でファンに手を振っていた。
ドクンッ…!
私の胸は高鳴り、急に顔が熱くなった。
こないだとはまるで別人じゃない…!
この妙な胸のザワついた感覚を周りに悟られぬよう、努めて冷静に、声を上げることもせず、ただただ静かに座っていた。
だが、私の視線は御村から離すことが出来なかった。
コンサートも終盤にさしかかり、アンコールが期待される中、私は本物のスタッフに呼ばれて離席した。
アンコール、最後まで見たかったな…。
昨日までは全く知らないグループだったのに。
圧巻のパフォーマンスに、たった一瞬で虜にされてしまった。
観客が帰る前に先に帰すのだろうと思って着いて行くと、そこは裏口でもなく、先ほどの空き部屋でもなく。
彼らの楽屋だった。
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