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ダサい格好で家を出る。
目的地はない。
確かに風呂に入ろうとしていた。
だけど外を歩いてる。
さっき噛んでしまった上唇を気にしながら。
財布くらい持ってくればよかったな
なんて後悔しながら。
シャツくらい羽織ればよかったな
なんて恥じらいながら。
買いたいものもないし、誰も見てはいないのに。
なにも考えないよう努めてただ歩く。
この不穏な雰囲気の町をちょっとだけビクビクしながら。
その反面刺激的ななにかに巻き込まれたいとも思いながら。
スーツのサラリーマンの横を
千鳥足の酔っ払いの横を
電気の消えた喫茶店の横を
笑声が漏れた居酒屋の横を
抱き合って静止したつがいの横を
様々な感情を抱きながら。
ホストクラブの看板を触って
真っ暗な車道の真ん中で
大きな月に見惚れて
赤信号で止まっては
青信号で歩き出し
鍵を握ってた手のにおいを嗅いで
施錠のしていない扉を開けたら、そこはさっき淹れた珈琲の香ばしさが残る部屋。
椅子に腰掛けてひと息ついた。
時計を見ると 30分時間が経っている。おかしいな。
そうだ、風呂に入らなければ。
そう思って僕は、サンダルをつっかけてドアノブを回す。
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