第2話「勇者の石」

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 ◆ ヘルヘルランド ◆    《♪ ♪ ♪ ♪ ♪》  心弾む軽快なBGM。空を彩る風船。食欲をそそる料理の匂い。  ケロタン達は現在、アグニス城より南西の方角にあるテーマパーク――ヘルヘルランドを訪れていた。  「ホットドッグ2つ!」  「はいよ!」  「んー、美味い!」  移動販売車でホットドッグを購入したケロタンは、早速それを頬張った。  パンに挟まる瑞々(みずみず)しい野菜と、焼き立てのウィンナー。  それらが口の中で弾け、ジューシーな味わいが全体に広がっていく。パンやケチャップとの相性も抜群だ。  「いやぁ、台風の後だってのに賑わってるな!」  「皆、暗い気持ちを吹き飛ばしたいのだろう。」  アグニスは大勢の客を見、そして地面を見下ろす。  災害対策にだいぶ金をかけているとは聞いていたが、記録的豪雨を物ともしないとは恐れ入る。何処もかしこも綺麗だ。  「あ、後であれ乗ろうぜ!」  ケロタンは遠くに見えるジェットコースターを指差す。  「そういうのは友と行け。分かってるだろ。今回は遊びに来たのではないぞ。」  「遊んだっていいだろ! アグランの御蔭で俺はタダで入れてるんだぜ!」  「とにかく用を済ませるのが先だ。」  アグニスは店には目もくれず、目的地に向かって真っ直ぐ歩いていく。  「なぁ、ホットドッグだけじゃ足りねーよ。あっ、ハンバーガー食おうぜ!」  ケロタンは見えてきたハンバーガーショップ――ヘルヘルバーガーを指差す。  「…………。」  アグニスは服の袖の球体をいじり、空中に時刻を表示した。    【AM11:56】  確かに、もう昼飯の時間だ。  「ぐぅ~!!」  ケロタンがアグニスの腹の辺りで声を出す。  「ぐぅ~~~!!」  「やめんか!」  「ぐあッ!!」  アグニスの拳がケロタンの顔面を捉え、腹の虫は収まった。  ◆ ハンバーガーショップ「ヘルヘルバーガー」 ◆  「んー、この味堪んねぇ!」  ケロタンは席に着くと、早速、ハンバーガーにかぶりついた。  彼が注文したのは、丸い目の模様が2つ描かれた、ケロケロバーガー。野菜がたっぷりで栄養満点だ。  一方、アグニスが注文したのは、爆発するような辛さが売りのヘルボルケーノ。火山のような見た目をしていて、見るからに熱くて辛そうである。  「んおっ!? おい、そんなの食べて大丈夫なのか、アグラン!」  赤い包装紙の中から姿を現したそのミニチュアのトラウマに、ケロタンはツッコまずにはいられなかった。  「新商品だそうだ。中々見た目が良い。」  「ひえー。」  ケロタンはアグニスに背を向けた。  (……変な奴だ。)  「まぁいいそのままで。ここのオーナーの話をしておこう。聞け。」  アグニスはこれから会う予定の人物――ヘルヘルランドのオーナー、ヘルシーについて話し出す。  「彼は一昔前に活躍していたスポーツ選手でな。   フットボールに水泳、格闘技にモンスターハントなど、あらゆる競技をオールマイティにこなす超万能選手だった。   しかし彼は、ある時から老いによる体力の低下を感じ始め、いつか追い抜かれるんじゃないか、この輝かしい時間の終わりが近いのではないか、そんな恐怖に(さいな)まれるようになった。  そして、それに耐え切れなくなった彼は、薬に手を出した。  過剰なドーピングが原因で体調を崩し、結局、バレて追放。  その後は病院に入院し、集中治療。  世間からの評価は地に落ち、彼の人生は完全に終わった。  ――かに見えた。  目を覚ました彼は、自分の身体が異様に軽いことに気が付いたという。  そう、彼の身体には不思議な変化が起こっていた。  なんとあらゆる病気を()ね付け、怪我を負っても瞬時に回復する、超健康な無敵ボディを手に入れていたのだ。  医師達は彼の身体を徹底的に検査したが、突然変異としか言いようのない変わりようだったという。  退院した彼は、これを神の慈悲と思い込み、身体の奥底から溢れ出る力に身を任せるまま、世の為、人の為、様々な事業に手を出し、成功を収め続け、今、この巨大テーマパークのオーナーに至る――という訳だ。」  「……創作か何か?」  「いや、実話だ。ドキュメンタリー番組も作られている。」  「ん……まぁいいや、で、そいつが勇者の石、持ってる訳か。」  「ああ、彼がダイバーとして海の調査をしていた頃、深海で発見したそうでな。   他に見つけた宝物と一緒に、縁起ものとして部屋に飾っていると聞いた。」  「それ、すんなり渡してくれるのか?」  「もう話は付けてある。私は彼のイメージ回復に貢献しているし、二つ返事でOKしてくれた。」  「へぇ~、んぐんぐ。」  ◆ ヘルヘルランド・オーナーハウス ◆  「ようこそお越しくださいました、アグニス王!!」  ケロタン達を出迎えたのは、身長2mは越えているであろう大きなノーマン。  元スポーツ選手と聞いていたが、体型はぽっちゃり。  白米のように真っ白い肌と、綺麗な笑顔が眩しい。  「……アグラン。どうすればいい? 伝説が目の前にいる。」  「私の後ろで止まっていろ。何も喋るな。」  「分かった。」  「こんにちはー!!」  「脳に障害でもあるのかお前。」  「おおっ、ナイス、元気なボーイだね! 良い挨拶だ!」  ヘルシーは巨大な拳でサムズアップ。  「俺の名はケロタン!」  「私はヘルシー!」    ケロタンの手を、ヘルシーの分厚く大きな手がガシッと包み込む。  出会って、十数秒。ここに確かな友情が生まれた。  「ヘルシー、勇者の石だが。」  「はい、ここに用意してあります。傷一つ付けていませんから、ご安心を。」  ヘルシーは勇者の石が入った四角いケースをアグニスに渡した。    「ん? 済んだか? じゃあ、遊ぼうぜ!」  「お前、目的を忘れたのか?」  「これも必要なことなんだ!」  「おお、そうです! アグニス様もたまには息抜きなされるといい! その方が仕事の効率も上がるでしょう!   丁度、今日の14時にセントラルエリアでビッグ・オークションが開催されます。   見るだけでも楽しめますよ。行ってみてはいかがです?」  ヘルシーはオークションのパンフレットをケロタンとアグニスに渡す。    「おおー。」  「ふむ……、面白そうだな。石をタダで譲ってもらうのも気が引けていたところだ。金を落としていくことにしよう。」  ケロタンとアグニスはオークション会場へ向かうことにする。  「俺一度やってみたかったんだ! 落札ってやつ!」  「私の金はやらんぞ。」  「はっはっは! 欲望の(おもむ)くまま! お楽しみください!」     
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