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◆ ヘルヘルランド ◆
《♪ ♪ ♪ ♪ ♪》
心弾む軽快なBGM。空を彩る風船。食欲をそそる料理の匂い。
ケロタン達は現在、アグニス城より南西の方角にあるテーマパーク――ヘルヘルランドを訪れていた。
「ホットドッグ2つ!」
「はいよ!」
「んー、美味い!」
移動販売車でホットドッグを購入したケロタンは、早速それを頬張った。
パンに挟まる瑞々しい野菜と、焼き立てのウィンナー。
それらが口の中で弾け、ジューシーな味わいが全体に広がっていく。パンやケチャップとの相性も抜群だ。
「いやぁ、台風の後だってのに賑わってるな!」
「皆、暗い気持ちを吹き飛ばしたいのだろう。」
アグニスは大勢の客を見、そして地面を見下ろす。
災害対策にだいぶ金をかけているとは聞いていたが、記録的豪雨を物ともしないとは恐れ入る。何処もかしこも綺麗だ。
「あ、後であれ乗ろうぜ!」
ケロタンは遠くに見えるジェットコースターを指差す。
「そういうのは友と行け。分かってるだろ。今回は遊びに来たのではないぞ。」
「遊んだっていいだろ! アグランの御蔭で俺はタダで入れてるんだぜ!」
「とにかく用を済ませるのが先だ。」
アグニスは店には目もくれず、目的地に向かって真っ直ぐ歩いていく。
「なぁ、ホットドッグだけじゃ足りねーよ。あっ、ハンバーガー食おうぜ!」
ケロタンは見えてきたハンバーガーショップ――ヘルヘルバーガーを指差す。
「…………。」
アグニスは服の袖の球体をいじり、空中に時刻を表示した。
【AM11:56】
確かに、もう昼飯の時間だ。
「ぐぅ~!!」
ケロタンがアグニスの腹の辺りで声を出す。
「ぐぅ~~~!!」
「やめんか!」
「ぐあッ!!」
アグニスの拳がケロタンの顔面を捉え、腹の虫は収まった。
◆ ハンバーガーショップ「ヘルヘルバーガー」 ◆
「んー、この味堪んねぇ!」
ケロタンは席に着くと、早速、ハンバーガーにかぶりついた。
彼が注文したのは、丸い目の模様が2つ描かれた、ケロケロバーガー。野菜がたっぷりで栄養満点だ。
一方、アグニスが注文したのは、爆発するような辛さが売りのヘルボルケーノ。火山のような見た目をしていて、見るからに熱くて辛そうである。
「んおっ!? おい、そんなの食べて大丈夫なのか、アグラン!」
赤い包装紙の中から姿を現したそのミニチュアのトラウマに、ケロタンはツッコまずにはいられなかった。
「新商品だそうだ。中々見た目が良い。」
「ひえー。」
ケロタンはアグニスに背を向けた。
(……変な奴だ。)
「まぁいいそのままで。ここのオーナーの話をしておこう。聞け。」
アグニスはこれから会う予定の人物――ヘルヘルランドのオーナー、ヘルシーについて話し出す。
「彼は一昔前に活躍していたスポーツ選手でな。
フットボールに水泳、格闘技にモンスターハントなど、あらゆる競技をオールマイティにこなす超万能選手だった。
しかし彼は、ある時から老いによる体力の低下を感じ始め、いつか追い抜かれるんじゃないか、この輝かしい時間の終わりが近いのではないか、そんな恐怖に苛まれるようになった。
そして、それに耐え切れなくなった彼は、薬に手を出した。
過剰なドーピングが原因で体調を崩し、結局、バレて追放。
その後は病院に入院し、集中治療。
世間からの評価は地に落ち、彼の人生は完全に終わった。
――かに見えた。
目を覚ました彼は、自分の身体が異様に軽いことに気が付いたという。
そう、彼の身体には不思議な変化が起こっていた。
なんとあらゆる病気を撥ね付け、怪我を負っても瞬時に回復する、超健康な無敵ボディを手に入れていたのだ。
医師達は彼の身体を徹底的に検査したが、突然変異としか言いようのない変わりようだったという。
退院した彼は、これを神の慈悲と思い込み、身体の奥底から溢れ出る力に身を任せるまま、世の為、人の為、様々な事業に手を出し、成功を収め続け、今、この巨大テーマパークのオーナーに至る――という訳だ。」
「……創作か何か?」
「いや、実話だ。ドキュメンタリー番組も作られている。」
「ん……まぁいいや、で、そいつが勇者の石、持ってる訳か。」
「ああ、彼がダイバーとして海の調査をしていた頃、深海で発見したそうでな。
他に見つけた宝物と一緒に、縁起ものとして部屋に飾っていると聞いた。」
「それ、すんなり渡してくれるのか?」
「もう話は付けてある。私は彼のイメージ回復に貢献しているし、二つ返事でOKしてくれた。」
「へぇ~、んぐんぐ。」
◆ ヘルヘルランド・オーナーハウス ◆
「ようこそお越しくださいました、アグニス王!!」
ケロタン達を出迎えたのは、身長2mは越えているであろう大きなノーマン。
元スポーツ選手と聞いていたが、体型はぽっちゃり。
白米のように真っ白い肌と、綺麗な笑顔が眩しい。
「……アグラン。どうすればいい? 伝説が目の前にいる。」
「私の後ろで止まっていろ。何も喋るな。」
「分かった。」
「こんにちはー!!」
「脳に障害でもあるのかお前。」
「おおっ、ナイス、元気なボーイだね! 良い挨拶だ!」
ヘルシーは巨大な拳でサムズアップ。
「俺の名はケロタン!」
「私はヘルシー!」
ケロタンの手を、ヘルシーの分厚く大きな手がガシッと包み込む。
出会って、十数秒。ここに確かな友情が生まれた。
「ヘルシー、勇者の石だが。」
「はい、ここに用意してあります。傷一つ付けていませんから、ご安心を。」
ヘルシーは勇者の石が入った四角いケースをアグニスに渡した。
「ん? 済んだか? じゃあ、遊ぼうぜ!」
「お前、目的を忘れたのか?」
「これも必要なことなんだ!」
「おお、そうです! アグニス様もたまには息抜きなされるといい! その方が仕事の効率も上がるでしょう!
丁度、今日の14時にセントラルエリアでビッグ・オークションが開催されます。
見るだけでも楽しめますよ。行ってみてはいかがです?」
ヘルシーはオークションのパンフレットをケロタンとアグニスに渡す。
「おおー。」
「ふむ……、面白そうだな。石をタダで譲ってもらうのも気が引けていたところだ。金を落としていくことにしよう。」
ケロタンとアグニスはオークション会場へ向かうことにする。
「俺一度やってみたかったんだ! 落札ってやつ!」
「私の金はやらんぞ。」
「はっはっは! 欲望の赴くまま! お楽しみください!」
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