第2話「勇者の石」

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 ◆ ヘルヘルランド・セントラルエリア ◆    【ビッグ・オークション】。それはヘルヘルランドでひと月に三回だけ開かれる、特別なオークションだ。  台風の過ぎた後の綺麗な青空の下、席に座り、待つこと数十分。時刻は14時前。  セントラルエリアの会場には、ケロタン、アグニスを含め、多くの人々が集まっていた。  その中には、いかにも金持ちといった風体の者もいるが、全体的に普通の客が多い。パンフレットにも書いてある通り、このオークションはお金の無い一般市民も楽しめるよう、工夫がなされているのだ。  ケロタンは入口で受け取った――ヘルシーの顔が描かれた金色のカードを見つめた。  何だか少しリッチな気分だ。  《♪ ♪ ♪ ♪ ♪》  「おっ。」  スピーカーから陽気な音楽が流れ出した。  それは始まりの合図。  舞台袖から一人の男が現れ、設置されたマイクを手に取る。  「ようこそ! ビッグ・オークションへ!!」  現れたのは、シルシルTV局のアナウンサーとして有名なノーマン――シカーイ。  「皆さま、台風の後にもかかわらず、今回も会場いっぱいにお集まりいただき、ありがとうございます!   今回も選りすぐりの商品を取り揃えているので、最後までお楽しみください!   司会進行はお馴染み、私、シカーイが務めさせていただきます!」  《パチパチパチパチ!!》    シカーイの挨拶で、会場は拍手に包まれる。  「あの人、ほんと何処にでも出てくるよな。」  安定の――という奴である。  実際、シカーイ以外の司会を見たことがない人もいるほど、彼はあらゆる番組・イベントに引っ張りだこ。その行動スケジュールは謎に包まれていて、巷ではシカーイ複数人説がまことしやかに囁かれている程だ。  「ふっ……。」  アグニスは何やら訳知り顔だが、業界の闇という奴なのだろうか。    「後日、このオークションの模様は各種メディアで報道される。お前は私の連れなんだ。悪目立ちはするなよ、ケロタン。」  「分かってるって。」  「……警戒が必要だな。」  最早、ケロタンの言葉は何一つ信じられない。  「皆さま、入口でこのカードはお受け取りになったでしょうか? 貰っていないという方は、係員にお申し付けください。」  シカーイは金色のカードを掲げ、舞台奥のモニターにも、その様子が映し出される。  「そして、お持ちの方は、目の前の机の上にあるカードリーダーに、これをお挿しください。」  モニターに手順が表示され、ケロタン、アグニス、そして他の客達は、その通りにカードを挿していく。  《ピッ!》  すると、その横の小さなモニターに数字が表示された。  「おめでとうございます! 皆さまのカードにボーナスマネーがチャージされました!   本オークションの一部の商品は、このマネーを使って落札することが可能です。   完全無償なので、どうぞ遠慮なくお使いください。」  「すげー、太っ腹だよな。」  「一応、言っておくが、その金を持ち帰れる訳じゃないからな。」  落札できなければ無に等しい。  「皆さん、準備は完了したようですね。では、参りましょう!   本日、最初の商品は、こちらです!」  
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